『逃げきれた夢』 (2023) 二ノ宮隆太郎監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

前作『お嬢ちゃん』 (2019)がなかなかよかった二ノ宮隆太郎監督。その前作と近似するテーマ、テイストながら、光石研を当て書きした脚本は、はるかにスケールアップした良作となった。この作品が二ノ宮監督の商業デビュー作となる。150本以上の映画に出演する光石研にとっては、2011年『あぜ道のダンディ』以来の単独主演作品(その『あぜ道のダンディ』は、光石の16歳のデビュー作『博多っ子純情』(78)以来の主演作品だった)。

 

光石が演じる末永周平は北九州の定時制高校教頭。北九州という舞台は、光石の出身地であることから選ばれたのだが、「田舎の高校教頭」という設定がハマっていた。

 

周平は、バイク屋を営む幼馴染(演じるのはこれまたバイプレイヤーの名優松重豊)からすると「大学出の勝ち組」。確かに学校という職場では教頭まで出世し、生徒からも慕われるというほどではないが、嫌われているわけではない。しかし、真面目に勤め上げてきた彼の努力は、家庭内では認められておらず、妻との関係は冷え切り、娘からも疎まれるという立ち位置。

 

前作『お嬢ちゃん』では、高校を卒業して大学に進学せずにカフェでバイトをする21歳みのりが主人公。美貌ゆえ友人からも「美人枠」として合コンに誘われ、彼女見たさにカフェに男性客が来る。女性にとって容姿のよさはメリットが多いだろうが、彼女自身は人生にさしたる目標も見いだせず生きづらさを感じた毎日を送っている。

 

周りからは「勝ち組」と目されながらも、本人の中ではあまり自分の人生に肯定的になれずに生きづらさを感じている主人公という設定が、前作と本作の共通点であり、二ノ宮隆太郎監督の描きたいドラマの中心がそこにあるのだろう。

 

何か大きな事件が起こるわけでもない彼らの日常を淡々と描き、その姿を通して「人生の矛盾」をあぶり出しながらも、結末に何ら解決があるわけでもない。その「人生の矛盾」に翻弄されつつも、前を向いて生きていく主人公のドラマが二ノ宮隆太郎監督のドラマである。

 

前作では、みのりに依存する幼馴染にきつく当たり、いつも不満げなみのりになかなか共感できなかったのだが、彼女がその幼馴染と共依存であることを自覚して自分を見つめ直す展開にかなりグッとくるものがあった。本作では、主人公が自分と同じ年代の男性ということもあり、当初から比較的容易に感情移入できたということはあった。そして光石研のハマり具合、それ以上と言ってもいいほどの松重豊のハマり具合(姿勢一つ取っても「田舎のバイク屋のオヤジ」感が出ていた)。やはりいい映画をいい映画たるべくしているのは、出演者の演技だと思わせた作品だった。

 

起承転結的なドラマチックな要素はなく、日常の中の「なんだかなあ」感を目の前に放り出されても「だから何なんだ」と感じる観客はいるかもしれない。自分にとっては、それが面白かった作品だった。

 

★★★★★★ (6/10)

 

『逃げきれた夢』予告編