『月に囚われた男』 (2009) ダンカン・ジョーンズ監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

地球上の資源が枯渇する2035年、月で採掘されるヘリウム3を利用することで人類は生き長らえていた。採掘会社と契約し、たった一人月に移住して仕事に従事するサム・ベル。人工知能のガーティを相棒に、ヘリウム3を採掘・精製する機械を制御して地球へ輸送する単調な毎日を送っていた。通信機器の故障から外世界とのリアルタイムの交信は不能となり、コミュニケーションは録画ビデオのやり取りのみで、サムは孤独感に苛まれていく。3年の任期終了まであと2週間と迫っていたが、肉体的にも精神的にも彼の限界に達していた。

 

監督のダンカン・ジョーンズは、デヴィッド・ボウイの息子。本作は彼の監督デビュー作となる。CM製作の経験を生かして、特殊効果・登場人物やセットを最小限に抑える事で、制作費500万ドルという、宇宙を舞台にしたSF作品としては極端に少ない製作予算で製作された作品。同年に制作されたJ・J・エイブラムス監督『スター・トレック』の制作費が、その30倍である1億5千万ドルであることを考えると、その制作費の安さが分かるであろう。そして興行成績は501万ドルと振るわなかった作品。この作品は、SF作品史上知られざる名作と言える作品。

 

原題は『MOON』。邦題は往々にしてダサいことが少なくないが、この邦題はデヴィッド・ボウイの初主演作である『地球に落ちてきた男』を踏まえたものであることは明らかで、なかなか気が利いていると思われた。

 

登場する人物は、ほぼサム・ロックウェル演じるサム・ベルただ一人。しかし、サム・ベルが二人(サム・ベルとサム・ベルのクローン。そしてサム・ベルも実はクローンというところがストーリー上のミソ)画面上に登場するシーンが数多くあるが、そこではもう一人のサム・ベルをロビン・チョークという俳優が演じている。特撮ではなく、編集の妙(一人でアップで映るシーンはサム・ロックウェル、二人で映るシーンはロビン・チョークがメークや帽子・眼鏡といった小道具で似せている)で「二人のサム・ベル」を映し出しているのは、何度か観返してようやくそれと分かるほどうまく作られていた。

 

クローンが自分のアイデンティティを疑い、自分がオリジナルでないと知ることの切なさは、SF映画の名作『ブレードランナー』でも描かれていたが、この作品もそれをテーマにしている。

 

クローンの寿命が、ほぼ任期の3年であるかのようであるのは、テロメアの寿命の短さと解釈することもできるだろうし、宇宙線の影響とも考えられる(実際に月面における人体への影響に関する知識は持ち合わせていないが、そのため映画の中の採掘会社は人間ではなくクローンを配置していると考えられる)。任期満了後の地球への帰還ポッドは、廃用になったクローンの廃棄処分装置だろう。

 

サム・ベルのクローンが現れた時点で、「二人とも綾波レイじゃねえか?」と理解したが、その理解は違わなかった。しかし、その後どのようにストーリーが展開していくのか、常に興味を持って観続けることができた。そのストーリーのよさが、この作品を優れた作品としている。

 

相棒のAIガーティ(声の出演はケヴィン・スペイシー)が『2001年宇宙の旅』のHAL900を思わせるように、過去のSF作品のオマージュに溢れた作品。低予算ゆえ、最初、月面のシーンは「ミニチュアじゃん」と思ったが、映画が進むにつれ、そうしたチープさは全く気にならないほど引き込まれてしまった。

 

SFファンであれば、見逃すべきではない作品の一本。

 

★★★★★★★★ (8/10)

 

『月に囚われた男』予告編