『メランコリック』 (2018) 田中征爾監督 | FLICKS FREAK

FLICKS FREAK

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

東大卒業後、両親と共に実家に暮らすニートの和彦。彼はある夜、たまたま訪れた近所の銭湯松の湯で、高校同級生の百合と再会する。彼女にその銭湯でのバイトを勧められた和彦は、彼女に会えるかもという期待を胸に銭湯で働き始める。同じ日に採用され共に働き始めた松本とも息が合い、百合との関係もうまくいきそうで、それなりに満足な日々を過ごしていた。ところが、その銭湯は閉店後「人を殺す場所」として使われていることを知り、和彦は、松の湯の主人・東から死体の始末を手伝うように迫られる。そして、松の湯の「裏の仕事」を手伝う破目になった和彦の平凡な生活は大きく変わっていく。

 

結論から言えば、日本のインディーズ系映画の質の高さを証明する大傑作。ここ近年の邦画の中でも、特筆すべき作品であり、個人的評価では『万引き家族』『鈴木家の嘘』に匹敵するほど。

 

ジャンル的にはコメディであり、そのシニカルなユーモアにはコーエン兄弟的なものを感じる。突拍子もない設定もそれ自体コミカルだし、主人公の和彦のドロップアウト感(高校同窓会に出席しても存在感ゼロの様子など)や、必要以上にほのぼのした家族の食卓風景などじわじわとくる可笑しさ。どれだけ人が死ぬんだというナンセンスさも、コメディの要素として考えていい。

 

しかし、コメディだからと笑い飛ばしてしまうような薄っぺらさはなく、微妙な人の心の機微が描かれている滋味豊かな作品であるところに魅かれた。

 

まずは和彦と松本の関係がうまく描かれている。年上であり学歴も上だが、何かにつけて負い目を感じる和彦は、松本が銭湯の「裏の仕事」でリーダーとされることにも少なからず嫉妬を感じる。訳ありの人生を送る松本は、そんな少々ドンくさい和彦をバカにするでもなく、敬語を忘れない「なんかいい奴」。彼らの間に微妙な信頼関係の築かれていく様子が伝わってきて、この作品を良質の「バディ・ムービー」にしている。

 

また、恋愛に不慣れな和彦が、高校以来再会した百合に引っ張られるように恋愛感情を募らせていく様子は、実に爽やかで、かなりどぎつい設定のメイン・ストーリーに清涼感を与えている。

 

エンディングに至るクライマックスの展開には、かなりスタッフは苦心したことだろう。確かにインパクトのあるエンディングということであれば、この展開もありだが、個人的な希望としては、キッチュ松尾似の銭湯主人の東にも大団円の中に加わってのハッピーエンドであってほしかった(彼がわざと狙いを外したという読みには与しない。彼はあくまでアマチュアであり、プロフェッショナルの松本を出し抜く自作自演はあまりに荒唐無稽だから。ネタバレを避けるとこれ以上は書けない)。

 

高学歴ゆえに「いい会社に就職して、幸せになるのが当然」というプレッシャーを抱えた主人公が、「幸せにならなくちゃいけないのかよ」と苦悩する姿は、この作品の隠れたテーマを表している。幸せとは、身の丈に合った平凡な生活の中に見出すものなのかもしれない。エンディングのその後の主人公たちの生き方も気になるところ。

 

観て損はない。是非。

 

★★★★★★★★ (8/10)

 

『メランコリック』予告編