昭和63年、暴対法施行以前の広島呉原では暴力団組織がしのぎを削っていた。そこでは、新勢力である広島広域に勢力を誇る五十子会系の加古村組と地元の尾谷組がにらみ合っていた。ある日、加古村組の関連企業の社員が行方不明になる。ベテラン刑事の大上章吾はそこに殺人事件の匂いをかぎ取り、新米刑事の日岡秀一と共に捜査に乗り出す。
白石和彌の作品の中では、『日本で一番悪い奴ら』が抜群に面白いと思っていた。『日本で一番悪い奴ら』は警察史上前代未聞の不祥事である実際の事件をベースにしたエンターテインメント作。この作品はそれを上回る面白さ。
拮抗する二つの組が抗争し、そこにヤクザ以上にヤクザなマル暴がからむという典型的なヤクザ物の設定。広島が舞台ということもあり、「ザ・ヤクザ物」と言える『仁義なき戦い』のオマージュが見て取れる。独特のナレーションやストップモーションの使い方など。
ストーリー的に面白いのは、ヤクザよりも悪いのは警察という点。その警察の中で、一番悪いと思われる主人公「ガミさん」が実はとてつもなくいい人という展開は、あらかじめ読めていてもやはり面白い。「ガミさん」の設定に説得力を与えている役所広司の幅広い演技は、抜群の安定感。
そして、それ以上に松坂桃李の演技がよかった。自分が正義だと思っていたことが正義ではなく、逆に何が正義かを教えられ、失ったものの大きさに苦悩する若き刑事。その彼が、「ガミさん」の後を踏襲するかと思わせて、、、のエンディングもよかった。
薬剤師岡田桃子を演じる、『2つ目の窓』の少女役だった頃の芸名吉永淳から阿部純子に変わった彼女の4年間での成長ぶりが、個人的には感慨深かった。
ヤクザ物というジャンルに新たな秀作誕生といったところ。それにしても、なぜヤクザ物には広島弁がこれほど似合うのだろう。
★★★★★★ (6/10)