母が経営するクリーニング屋を手伝い、引きこもりの生活を送っている35歳の吉村正子。容姿に劣等感を持つ彼女は、友人も恋人も作らずに社会との関わりを避けていた。ところがある日、唯一の味方である母が急死する。そして、葬儀で顔を合わせた美しい妹に罵られ、正子は突発的に彼女を絞殺してしまう。香典を手にして、逃走生活を始める正子。生まれて初めて俗世間に揉まれ、さらに色々な男たちとの出会いを経て、彼女は変わっていった。
福田和子の事件(強盗殺人後、15年逃亡していたが、公訴時効成立直前に逮捕)をベースにしているというが、無理に関連付ける必要はない。
吉村正子を演じる藤山直美の演技に尽きる(キネマ旬報賞、毎日映画コンクールにおいて主演女優賞受賞)。ストーリーは比較的淡々と進むのだが、じわーっと来る滋味深さ。それは藤山直美でなければ得られなかっただろう。
正子の逃亡中に出会う、数々の男性とのそれぞれのドラマも興味深いが、残念ながら深い関わり合いにはならない。それはそれで切ない。それに対し、同じ女性である大楠道代演じる中上律子(自殺未遂の直後に出会い、彼女が経営するスナックで正子は働く)との短いながらもお互いの心に触れあう関係がよかった。
警察に追われることを怖れて逃亡を続けるために、律子に別れを告げる電話を入れた正子。死を予感したのか、生き続けよと勇気づける律子の言葉が実に沁みる。
「おなかが減ったらご飯食べて、またおなかが減ったらご飯食べて、遠くを見らんでいいの」
そしてラストシーンが秀逸。心に残る。
観るべき秀作の一つ。
★★★★★★★ (7/10)
