『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』 (2017) ジョー・ライト監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

ナチスドイツがヨーロッパを席捲する中、反ヒトラー派のチャーチルは首相に推される。そして第一次内閣を組閣したのは1940年5月10日のことだった。それから、5月26日からの5日間のダンケルクの撤退までの1ヵ月足らずを描いたドラマ。

 

監督のジョー・ライトは、2005年『プライドと偏見』、2007年『つぐない』という、共にイギリス文芸作品を原作にした佳作を作っている(恋愛物でありながら、前者はハッピーになれる作品に対し、後者は切なく悲しい作品)。『つぐない』では、主人公がダンケルクの撤退中に死んでいる。この作品でも、ダンケルクの撤退がフォーカスされていることから、イギリス人のジョー・ライト監督はダンケルクの撤退に思い入れがあるのかもしれない。クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』(2017年)を観ていたから、事のあらましは知っていたものの、そうでなければイギリス人にとっての常識を知ることなく、すんなり入ってこない部分もあったかもしれない。

 

チャーチルは政界に長くいたが、一時期干されていた。その間イギリス政治界では、勃興しつつあったナチスドイツに反共(反ソ)の壁を期待して、彼らにむしろ共感的であった。それはチャーチルが属していた保守党の主流派も同じであった。対独融和派の保守党主流と敢えて一線を画す対独強硬論に立つことで、ドイツ脅威論が盛り上がってきたところを保守党中枢に返り咲こうという政治的狙いだったと思われる。そうした政治的背景を理解すると、チャーチルは必ずしも「ヒトラーから世界を救おうとした」とは言い難いかもしれない。

 

勿論今日では「ヒトラー=悪」は確定しているため、常にナチスに対して強硬論を取っていたチャーチルを救世主として脚色することは容易だろう。しかし、彼は反政府分子を裁判なく無期限に投獄できる防衛規則の修正規則を制定して、イギリスを言論統治国家に変貌させた人物でもある。映画を観ながら何度も浮かんだ言葉は、「勝てば官軍負ければ賊軍」だった。ダンケルクの撤退により30万人のイギリス海外派遣兵を撤退させることができたのは、奇跡的(ヒトラーが、ダンケルクの撤退に先立つアラスの戦いを連合国軍の本格的な反撃の端緒であると誤認し、酷使した機甲部隊の温存を図って追撃をしなかった間隙を縫ったもの)なものであり、戦争時、強硬論が国家の集団自殺につながる歴史的例は枚挙にいとまがないだろう。

 

チャーチルをヒーローとして見るのではなく、好戦的なアンチヒーローとして見るのであれば、今日的意味があるのかもしれないが、邦題通りの受け止め方であれば(原題は『Darkest Hour』、邦題よりは深い意味がありそう)、ただでさえきな臭い現代社会にはそぐわない作品であろう。

 

★★★★★ (5/10)

 

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』予告編