『父の祈りを』 (1993年) ジム・シェリダン監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

1974年にIRAによって実行されたと思われるロンドン郊外で起きたギルフォード・パブ爆破事件(同時期に英国の司法界史上最大の汚点とされるやはり冤罪事件のバーミンガム・パブ爆破事件が起こっている)を題材に、冤罪で逮捕されたアイルランド人ジェリー・コンロンとその父親の、再審への長い戦いを描く。

 

父ジュゼッペ(ビート・ポスルスウェイト)の心配をよそに、息子のジェリー・コンロン(ダニエル・デイ=ルイス)は放蕩の毎日だった。ある日ロンドンから約50キロ離れたギルフォードでイギリス軍人がひいきにしているパブが爆破され、軍人4人と一般人一人が命を落とす。ジェリーは容疑者として逮捕され、彼の友人や父、叔母一家も連座した。しかし、ジェリーには爆破当時ロンドンにいたというアリバイがあった(公園でホームレスのアイルランド人と会話し、その後友人と娼婦の家に盗難に入っている)。しかし、そのアリバイは捜査当局により隠蔽され、彼は拷問まがいの取調べに屈し、白紙の調書に署名する。そしてジェリーは無期懲役、父ジュゼッペは12年の懲役刑を受け父子は同じ刑務所に投獄された(現実には同じ刑務所に投獄されていないが、ストーリーを盛り上げるための脚色)。ジュゼッペは一縷の望みを託し再審の訴えを続けるが、全てを諦めたジェリーは無為な日々を送っていた。ある日、IRAの指導者の一人が刑務所に送られ、爆破は自分たちの犯行であり、捜査当局は真実を知りながら隠蔽していると告白する。彼らを助けるというIRA指導者の協力を拒絶したジュゼッペは次第に健康を害し、獄中で無念の死を遂げた。父から信念と生きることの尊厳を学んだジェリーは、父の汚名を雪ぐため、再審請求運動に身を投じていた。女性弁護士ピアース(エマ・トンプソン)は警察資料の中から隠蔽された証拠を発見し、遂に法廷で無罪を勝ち取る。事件から15年後にジェリーは晴れて無実の身となった。

 

捜査当局による証拠隠蔽という典型的な冤罪のパターン。検察は、公判に全ての証拠を提出することを義務付けられているわけではないので、この手の冤罪は山ほどある。日本においても、著名な事件では東電OL殺人事件。再審無罪の後の報道コントロールで事件発生当時のDNA型鑑定の不備が原因のように思われているが、ゴビンダ氏が犯人でない証拠を、捜査当局は彼の逮捕直後から握っていたがそれは公判に出されることはなかった(遺体の口唇及び乳房に付着していた血液型鑑定が隠蔽されていた証拠。それはO型であり、ゴビンダ氏の血液型はB型。再審時の証拠開示で初めて弁護側の知るところとなった)。ゴビンダ氏も15年の投獄生活を送った。

 

この作品は法廷でのドラマも扱っているが、それはあくまでサブ・プロット。メインは父が息子に身をもって信念を貫くことの尊さを教える監獄内でのドラマ。無実の罪で投獄されている父のジュゼッペにIRA指導者が謝ると、彼は「謝るのは私に対してではない。爆破の犠牲になって命を落とした人たちに対してだろう」と言って、IRA指導者が無実の証明を手伝うのを断るのである。目的のために手段を選ばないということでは、矜持に欠けるということである。

 

実話がベースになっているだけに(ディテールはドラマチックになってはいるが)、感動もより深くなる。小難しい法廷モノではなく、人間の生きるべき姿を力強く描いたドラマであり、多くの人に観られるべき作品だろう。

 

★★★★★★★ (7/10)

 

『父の祈りを』予告編