新海誠監督『君の名は。』が大ヒットする中、本作品と両方観た人が断然本作品の方がいいという声をよく耳にする。『君の名は。』は新海作品の中では、一番完成度は高いものの、個人的には『秒速5センチメートル』の方が好きであるゆえ、多分、その意見に同調できるのだろうと期待して観た。そしてその期待は裏切られなかった。
すずは、広島市江波で生まれ、絵が得意な少女だった。成長したすずは、彼女が見知らぬと思っていた若者の妻として、20キロ離れた町の呉に嫁ぐ。ときに昭和19（1944）年、戦況は徐々に悪化しつつあった。18歳で一家の主婦となったすずは、物が欠乏していく中で、日々の食卓を作り出すために工夫を凝らす。しかし日本海軍の根拠地だった呉は、何度もの空襲に襲われ、すずが大事に思っていた身近なものが奪われてゆく。それでもなお、すずは懸命に生きようとする。
日常のなかに平然と悲劇が入り込む戦時下の特殊性と、食べたり、笑ったり、喧嘩したり、愛したりといった普遍的な営みが同居する日々の暮らしをすずを中心に描いている。
戦争、そして原爆をテーマにしていることで非常にヘビーな内容のはずだが、異常な状況下でも「普通でいること」を失わないすずの姿に救われる気がする。
恋愛も少々時代がかっているが、じんわりとくる温かさがある。「ありがとう、この世界の片隅でウチを見つけてくれて」は相手を慕う最高の言葉であろう。
一人の少女～女性の日常が描かれているだけに、戦争が始まるまでは若干散漫な印象も受けるが、後半、戦争が始まってぐっとまとまってくる。
素朴なアニメーションと声優陣の演技が調和しているが、中でものんの演技は、芝居の良し悪しを越えてすずとしてフィルムの中に生きていた。
静かで哀しい強烈な反戦映画であり、見逃すには惜しい映画であろう。
★★★★★★★ (7/10)