テリィの気持ち、キャンディの気持ち 【15】 (NY・前編) | 水色のリボン

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***** 小説キャンディキャンディ FINAL STORY (長い物語のかけら 22) *****
 
 
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キャンディはNYからちょっと離れた小さな駅に到着した。
駅の改札を出て、待っているはずの人の姿を探そうと目を泳がせたら、「キャンディ!」と呼ばれ、いきなり抱きしめられた。
それは、テリィだった。
「もう、びっくりするじゃない!」そういいながらも、キャンディはうれしさでいっぱいだった。
「君の視力はあてにならないからね。おれが先に見つけないといけないだろ?」抱きしめたままテリィは言った。
そして少し腕を緩め、テリィはキャンディをじっと見た。それはまるでキャンディを確認するかのようだった。
キャンディはテリィを不思議そうに見て「どうしたの?」と聞いた。
「本当に君がおれのところに来たんだと思って」真面目な顔をして言った。
「そうよ。やっとあなたの許可がでたから」笑って言った。
テリィはまたその腕をきつく締め、「絶対に離さないからな」と低くささやくように言った。
その言葉をキャンディは全身で受け止めて、「私も絶対に離れない」、そう思った。
「ずっとこうもしてられないか」とテリィは腕をそっと離し、キャンディの荷物を軽々と持った。
「キャンディ、こっちだ。行こう」と笑顔で声をかけ、軽い歩調で歩き出した。
 
キャンディが結婚の事務処理を待たずにNYへ行く事には、なった。
しかし、テリィは多忙のため何の準備も出来てはなかった。
キャンディはそれでもいいと、エレノア邸に引っ越す事をすぐに決めた。
テリィはキャンディをポニーの家まで迎えに行きたかったし、先生方にも改めてきちんと挨拶をしたかった。
しかし、そうなると日を選ぶ必要があった。
キャンディは「私は少しでも早くNYへ行きたいの。あなたは何もしなくていいから!」と言い、ひとりでNYへ向うことを決め、今日の日を迎えたのだった。
待ち合わせはNY駅ではなくその手前にある小さな駅、はテリィが決めた。
さすがにもう知名度の高い人気俳優のテリィなので、多くの人が行きかう大きなターミナル駅でキャンディを待つことは不可能だった。
でもどうしても迎えに行くという彼の意向を汲んで、このようになった。
 
「さあ乗って」とテリィが言ったその車をキャンディは見た。
「これなの?すごーい。」と声をあげた。
以前のものとは明らかに違った。とても立派で丈夫そうなものだった。
「大事な人を乗せるんだから当然だろ?」と言ってテリィは笑い、NYへ向かって車を走らせた。
 
「電車、疲れなかった?」テリィが気遣うように聞いた。
「全然平気よ。昔と違ってとても速いし、乗り心地もよくなったもの」 
キャンディはあの時以来初めてNYへ向かう電車に乗り、快適さにとにかく驚き、10年とはこんなに進歩があるものなのかと思った。
「それはよかった」安心したようにテリィは言った。
 
「ね、お母様の家ってどんな家なの?」キャンディはずっと知りたかったことを聞いた。
「それは見てからのお楽しみ」と言ってテリィは何も教えなかった。
きっとひと目で気に入ってくれるはず、とテリィは思っていた。
 
「お母様はおかわりないの?」キャンディはずっとそれも気になっていた。
テリィは何もいわないけれど、手紙からはエレノア・ベーカーとは隔たりが無いとは感じていた。
「初めてこっちに来てから会ったけど、まあ、とにかく驚いたよ」思い出すようにテリィは言った。
「君も知っているだろうけど、母さんは今は映画を中心に活動している。相変わらず元気で見た目もたいして変わりはしない。おれの結婚の予定を知って、相手が君だとわかるととても驚いて喜んでくれた。
住まいのことを相談したら、とても親身になって考えてくれて、期間が1年だけだとわかったら、自分の家がいいからって押し切られた感じだった」
そういってテリィは笑った。
それはすっきりした笑顔で、キャンディはテリィとエレノアの間にはもうわだかまりはないとわかった。
「その後も結構すごかった。あんなに押しの強い人とは思わなかった。
今までろくに会った事もなかったから、知らなかっただけだろうけど」
 
今まで一度も頼ってきたことがない―、キャンディはロックスタウンでのエレノアの言葉を思い出し、エレノアがどんなにうれしかっただろうと思った。ずっとエレノアはテリィに会いたかったことは間違いないのだ。
 
「めったにこっちにはいないって言っていたくせに、ずっといそうなことも言い出したりもしているんだ。
本当に困った大家さんだ。」そうテリィはいって、キャンディを見た。
「君もそれは困るだろう?だからおれのアパートで暮らそうかとも考えている」
「あのね、テリィ、あと1年しかNYには住まないのよね?」確かめるような言い方だった。
「ああ。イギリスへ渡るから」テリィはわかっていることをどうして?というように聞いた。
「お母様と一緒にいられるのってあと1年でしょ。だったら、私、それで全然構わない」はっきりそういった。
「いいのか?」テリィはちょっと驚いてキャンディを見た。
「私、ママと暮らしたことが無いから、そういうの憧れていたの」とキャンディは言った。
キャンディは、きっとエレノアはテリィと暮らしたいのだと思った。あと1年しかテリィはアメリカにはいない。
だから一緒にいたくてそんなに強くも言い、今も仕事を調整してでもNYにいるのではと思った。
 
「わかった。でも、何かあったらすぐ言ってくれよ。君が想像する以上にこうるさい人だから」と笑っていった。
「でも、きっと母さんは喜ぶと思う。ありがとうキャンディ。」テリィはそういってキャンディを見た。
「君の事をあれこれと考えているようで、おれにうるさく言ってくるんだ。こんなにおせっかいなものなんだな、母親って。まあ楽しそうにしている人を見るのはいいものだな。」
テリィがエレノアをわかっていることがうれしくて、キャンディは思わず涙があふれた。
「え?おれ、泣くようなこと、言った?」テリィは焦った口調で言った。
「ううん。なんでもないの。お母様に会うの、とても楽しみだと思って。早く会いたいわ」
キャンディは本当にエレノアに会いたいと思った。
今度は、きっと笑顔で会えるだろうと思った。
 
「母さんには覚悟しておいたほうがいい。もう君とどこへ行こうかまで考えていたから。
全く、おれだって君とデートもしていないっていうのに」
行きたいところ―。キャンディはそれはもちろんテリィの舞台を見たかった。だから劇場へは絶対行きたかった。
それってもしかして…とキャンディは思った。
「おれの婚約者なら娘も同然といって、おれが絶対行きそうも無いところをいろいろ言っていた。
君なら興味あるかもしれないけど」
キャンディは予想がはずれたと思った。
「そんな感じだけど、『ちょっとうるさい大叔母』よりはいいだろう。君を気にかけているからだとも思うんだ。
だから、おれ同然におせっかいをやきたいのかもしれない。あと1年しかないからもあると思う。
君には最初からこんなことになってしまったけど、許してくれたらうれしいと思っていたんだ」
「きっと、楽しいと思うわ」キャンディはそういってテリィを見た。
「だって、あなたを生んでくれたひとだもの。だからあなたに似ていると思う。
そうだわ!あなたの小さい頃の話、たくさん聞けるわね。とても楽しみだわ」
テリィはキャンディを改めてやっぱり好きだと思った。
 
 
景色が次第に変わってきた。
最初は開けていてのんびりしていたが、緑が減り、建物が立ち並ぶようになり、その建物も高いものになってきた。車の行きかう量も増えてきた。
  
「お父様とはどうなの…?」キャンディはずっと気になっていたことを初めて聞いた。
今までテリィは一切口にした事がなかった。明らかに彼は父とは関わりたくないことが感じられていた。
「イギリス公演までは会った事はなかったし、連絡もしなかった。イギリスを出るときに名前を捨ててアメリカへ行くことは手紙で伝えた。おれは跡取りではないし、それでいいと思っていた」
やっぱり、とキャンディは思った。
理由は何もわからなかったが、テリィがエレノアの子供であることが隔たりの原因のひとつだろうとは思えた。
 
「ロンドンのパーティで父さんに偶然会ったんだ。それはロンドン公演記念のものだったから、父さんが来るわけはないと思っていた。でもなぜかきていた。だから公演も観てくれていて、父さんから声をかけられた。」感情があまり無い静かな声だった。
「そのとき、俳優であるおれを認めるようなことを言ったんだ。驚いたけど。だから君が心配する事は何もないから、安心して。やっぱり気になっていた?」 
「ええ。だって、あんなに突然に海を渡って、名前を捨てて、俳優になっていたら誰だってそう思うわよ。
お父様だって心配したに違いないと思うもの。あなたは特に有名な貴族の息子でもあるし。
俳優になることをとても反対されていたなら、連れ戻されることだってありえると思ったもの。」
「だから、反対されていなかったんだってわかったよ。父さんはずっとおれを認めてくれていたのかもしれない。
そんなことはありえないと思っていたから、理由は全くわからなかった。だけど最近それがあることからわかったんだ」
「最近?だったらお母様から?」
「近いけど、違うんだ。いずれ君にもわかるから」そういってテリィは笑った。
  
二人は休憩を兼ねて小さなお店に入り、軽く食事を取った。
時間をはずしたからそこには他に客はいなくて貸切だった。
「テリィっていってもいいの?」キャンディは聞いた。
「じゃあどう呼ぶんだ?」
「…キザ貴族」
「なんだそれ?」
「アーチーが昔そう言っていた」キャンディはつい言ってしまった。
「そうなのか?なんて奴だ、あいつは」そういってテリィは笑った。
  
順調に車は流れ、いよいよ周囲はNYの景色に包まれてきた。
キャンディは初めて緊張を感じた。
それはテリィにもすぐわかった。そして、エレノアからもそれに釘を刺されていた。
「私もつらい別れを経験しているからわかるのよ」とエレノアは言っていた。
エレノアが父や自分との別れを経て、いろんなことを感じたであろうことをテリィは改めて気付いた。 
 
「キャンディ、手、だして」とテリィは自分の右手を差し出して言った。
「え?」
「左手、だよ」
言われるままキャンディが左手を出したら、テリィはその手をしっかり握った。
「大丈夫。おれがいるから。君もおれに少しは頼って」
キャンディは初めてテリィと手をつないだ。
テリィの手―。とても繊細で、大きくて、暖かいと思った。
そして、とても安心できた。ずっとこの手を待っていた、そんな気がした。
緊張は次第に解けていった。
 
「初めて、手をつないだの」
「そうだな」
「おかしいわよね。婚約しているのに」
「二人で出掛けた事も無いんだな。昔のロンドンの動物園と、ポニーの丘だけだ」
「あと、アードレー家の湖…」
「あれもか?まあ、あのおかげで君をNYへ迎える決心をしたんだけど」
「まさかあなたが硬い意志を崩すと思わなかったわ。あんなにけじめに拘っていたから」 
「おれは間違いに気付いたらすぐに訂正できるんだ」笑っていった。
「?」
「人は自分の間違いにあまり気付かないものだと思う。自分は正しい選択をしていると信じているから。
だから気付ける事が大事なんだ。
間違いを認めて立ち止まることも、実は簡単なことじゃない。
でも立ち止まって修正しないと、誤ったまま先に進んでいって取り返しがつかなくなることもある。
だから今回の事は気付けてよかった。君を守るならそばにいることが一番大事だった」
 
テリィはそう言うと、何かを考えるような表情になった。そして少し顔を上げ、はるか前方に目をやった。
ふいにつないだ手が強く握られ、キャンディはテリィをそっと見た。
テリィは前を見たままで何も言わなかった。
でも、つないだ手からは彼の気持ちが伝わってきた。
キャンディにはテリィの『覚悟』が感じられた。
『いろいろな覚悟』とシカゴでテリィは言っていた。この先、様々な出来事が起こることも。
 
キャンディはテリィの手を握り返した。
私は何があってもテリィを信じてずっとそばにいる、その覚悟をこめて。 
 
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(続く)