テリィの気持ち、キャンディの気持ち 【10】 (けじめ と 日記) | 水色のリボン

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***** 小説キャンディキャンディ FINAL STORY (長い物語のかけら 17) *****
 
 
テリィ・キャンディ編の10回目。  
 
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キャンディはテリィからの手紙を受け取った。
それはポニーの丘の再会後、初めて来た手紙だった。
 
* 
キャンディへ
 
元気か?
おれと会ったこと、ちゃんと覚えているだろうな。
 
こちらに戻ってきて、いろいろ準備をしている。
住まいは決まった。驚くかもしれないが母の家だ。
実はアメリカへ来てから初めて母に会ったんだ。おれには相談できる人がそのひとしかいないから。
君との結婚を伝えるとすごく喜んでいた。
母は映画の撮影でほとんど家を空けているが、たまに戻ってくるらしい。
そのときは母はいることになる。
迷ったが、1年だけだからそこにした。
君が気に入るといいんだけど。
 
後は、事務手続きを残すだけだ。
それを済ませたら迎えに行く。それまで待っていてくれ。
 
テリィ
* 
  
読み終えて、キャンディはふっと息をついた。
「…だったらいつになったら会えるのよ」
 
キャンディはテリィはすぐに迎えに来てくれるものと思っていた。住まいが決まったならすぐに。
でも、彼はそうするつもりはないのだとわかった。
(昔は「片道切符」を送ってきたのに)
あの時はアルバートさんがいたからNYに残るつもりはなかったが、彼の気持ちはとてもうれしかった。
 
テリィはスザナと長きに渡って婚約をし同居していた事をとても気にしている、そうキャンディは思っていた。
それはテリィが口にもしたから明らかだった。
テリィはいい加減な人ではない。だから結婚が前提ではないにしても、それは辛かったに違いない。
だから、私とはそうしたくないのはよくわかる。
結婚してから一緒に暮らすことが、私を守る事になることも。
 
でも、それよりも、今一緒にいることが大事だとキャンディは思っていた。
テリィは平気なのだろうか、離れていることに。
想いは通じ合っている。結婚の意志も確かめ合っている。
だけど、会えない状況は以前と変わらないままだ。
同じアメリカにいるのに、海を隔てているくらいにテリィは遠い…、そう感じていた。
  
それでも、手紙をまたやり取りできることはとてもうれしいことだった。
キャンディは手紙を通してテリィを想像した。
テリィが初めてエレノア・ベーカーに会ったということには驚きがあった。
それはエレノアもテリィに会おうとしなかったということでもあったからだ。
(エレノア・ベーカーはきっとテリィが会いにきた時、うれしかったでしょうね)
ロックスタウンのことを思い出した。エレノアは「今まで頼ってきたことがない」と言っていた。
テリィが初めて頼ったことが住まいのためだったことに、キャンディはおかしくて、うれしくもあった。
(そうやって彼は私を守ろうとしているのね)
 
そして、テリィが今まで誰にも頼らないできたこともわかった。
(ずっと彼はひとりでやってきたのね。それはそうでしょうね…)
あの10年の間、彼は何かあったとしてもそうしてきたことは容易に想像できることだった。
 
文面からは、彼がエレノア・ベーカーとはわだかまりがないような気がして、それにはほっとした。
(それにしても、エレノア・ベーカーと一緒に住むってどういう感じなのかしら?)
エレノア・ベーカーとの再会があると思われ、キャンディはそれがどんなものになるかと楽しみになった。 
 
 
* * *
 
 
テリィはアルバートさんと会っていた。
それはアルバートさんからの突然の電話が始まりだった。
「急で悪い。近くに来ているから会えないかい?」
テリィは懐かしい声を耳にし、オフィスの壮麗な応接間での13年ぶりの再会となった。
  
「久しぶりだね、テリィ。君の活躍はよく知っているよ。こうしてまた会えてとてもうれしいよ」アルバートは笑顔でそういった。
最初、テリィはいくらかの緊張を感じていた。
かつて見知った人とは違った印象の佇まいだったからだ。
しかし、その穏やかな声、聞き覚えのある言い回し、そして記憶にある人懐こい笑顔を確かめ、その人は紛れも
もなくあのアルバートさんだとわかると気持ちが一瞬でほぐれた。
「アルバートさん、お久しぶりです」少し改まった声でそう言い、恭しく頭を下げた。
「すっかり大人になって見違えたよ。最後に会った時はまだ少年だったからね。しかも今日はそんな改まった態度だし」楽しげな口調だった。
「あなたはキャンディの養父でもありますから」そう言ってテリィも微笑した。
「もっと違ったところでと思ったが、お互い人に見られないほうがいいと思ってね」申し訳なさそうに、でも茶目っ気たっぷりなしぐさでそう言った。
「いえ、ぼくのほうから挨拶に伺わなくてはいけないところでした。場を設けてもらってよかったです」
感謝の気持ちをこめてそう言った。
  
ふっと笑ってアルバートは続けた。  
「キャンディから連絡があってね、君とのことの報告だった。とにかくいきなりで驚いたよ。
でも本当によかった。ぼくもうれしいよ。」それは気持ちがこもった声だった。
「それは結婚を認めてもらえるということですか?」テリィは尋ねた。
「キャンディの幸せはキャンディが決めることだ。彼女は自分の意思でずっと人生を決めてきた。
それをぼくは養父として見てきただけだ。そして彼女は君と生きていくと決めた。ぼくはそれを尊重したい。
テリィ、君はぼくに認めてもらいたいのかい?」いたずらっぽい視線でそういった。
「あなたに認めてもらわないと安心できませんから、是非」テリィは真面目な口調で言った。
「そうか、そういうものなんだね。わかったよ、キャンディとの結婚を認めるよ、テリィ」
「ありがとうございます。」ようやく彼は肩をなでおろした。
  
挨拶を済ませたらアルバートはこう言った。
「実は、キャンディがいないところで話したくて、この場を用意したんだ」
「それはどうして…?」
「以前、ぼくはキャンディと同居していた事があっただろう。それについてだ」
瞬間、テリィは心臓をつかまれた気がした。
それはずっと心のどこかで気になっていたことだった。
昔、キャンディが手紙でそれを伝えた時からどこかすっきりしないものがあった。
 
「もしぼくが君だったら、それが気にならないわけがない。だから言っておこうと思う。余計なことだったかな?」
「いいえ」テリィは正直に言った。
「ぼくとキャンディは兄と妹みたいに暮らしていた。それ以外何でもない。神に誓っていえる。
でも年頃の男女が同居していたわけだから、いろいろ世間の目があったのは確かだった。
だから彼女は病院を解雇されて大変だったことがあった」
「…そうなんですか」
「解雇された時に出会った診療所の先生が、今の勤務先の先生なんだ。ぼくの記憶喪失を診てくれた名医でもある。とてもいい先生だ」
「尊敬できる医師っていっていたのはその人なんだ…」思い出したように言った。
「聞いたかい?」
「いきさつは一切聞かなかったのですが、シカゴでお世話になったと」
「キャンディらしいな…」アルバートは目を細めた。
「彼女には幸せの探知機がついているみたいでね、どんな辛い事でもさらりと受け止めてしまえるようだ」
「…ええ」
  
この人はキャンディの事をとても理解している、そうテリィは思った。
そうだった、アルバートさんはおれの知らないキャンディを知っている。
この人はラガン家にいたときに家出したキャンディを滝から助けたことがある。
そしてキャンディを養女にした。
イギリス留学を指示し、ロンドンでもあのように偶然ではあるが会ってもいた。
そして記憶喪失になった時に看護師をしているキャンディに再び出会い、キャンディと1年間同居していた。
おれと別れた後の彼女を一番近くで見ている。
そして、別れていた10年の間も彼女の養父として近いところにいた人だ。
  
テリィの気持ちを読み取ったかのように、アルバートは尋ねた。
「君からぼくに聞きたいことは何かあるかい?」
 
テリィは聞きたい衝動に一瞬駆られた。
しかし、それを彼は押し止めた。
「…いえ、特にはないです。」
「そうか」アルバートはそう言って、テリィを確認するように見た。
それを感じてテリィはいった。
「アルバートさんは意地悪ですね。おれを試しているんですか?」
「いや、ぼくだったらどうするかと思ってね。好きな人の近くにずっといた男性に何を聞こうかって」
「じゃあ教えてもらいたいですね。あなたならどうしますか?」
アルバートは一瞬考え、「君と同じだな!」と言って高らかに笑った。
それを受けてテリィも微笑み、小さく息をついてこういった。 
「おれがキャンディのことをあまり知らないのは確かです。別れていた10年間の事もまだ聞いてはいないし。
彼女の辛い過去を断片的に知っているだけなんです。だから全部知りたいと思う気持ちもどこかにあります。
でも、今の彼女がわかればそれでいい」
そうテリィははっきり言った。
 
テリィのキャンディへの想いの深さを感じたアルバートはこういった。
「キャンディはずっと君だけを想っていたことは確かだ。ぼくが保証する」
「アルバートさん、ありがとうございます。でもそれはおれが一番確信のあることですよ」
「テリィ、全く君は変わらないね!」アルバートはそう言い、二人は笑いあった。
 
「それはそうと、今後はどうするんだい。問題は何もないし、キャンディはすぐNYへいくのかい?」
「いえ、手続きが済んでからと思っています。今、イギリスから書類を取り寄せているところです」
「それじゃあすぐには無理だね。いいのかい?」アルバートの声が上がった。
「ええ」
「もしアードレー家に気を遣っているなら、それはいらないことだよ。婚約はしているんだから」 
「おれは長い期間婚約をし同居をして結婚をしなかった過去があります。だからそのようなことはもうしたくはないんです。」静かだがはっきりした声でそう言った。
「けじめをつけたいんです」それは強い声だった。
アルバートはテリィの意志は強いと感じた。
「わかった。君がそこまで言うならぼくは大いに協力するよ。後のことは任せてくれ」
アルバートはテリィを優しく見た。
「書類の扱いは君よりは慣れているからね。後は忙しいところ悪いがシカゴに一度来てほしい。
ちょっとうるさい大叔母がいてね。婚約式とはいわないが顔合わせは必要なんだ」
「はい、わかりました」テリィはそういった。
 
アルバートは、シカゴで二人が会ったなら、おそらく今の事態は変化するだろうと思った。
それはきっといい方向へ行くものと思われ、今硬い意志のテリィがどうなるかと楽しみになった。
 
そしてアルバートは「どうしても渡したかった」と言ってテリィにあるものを渡した。
それはキャンディの日記だった。
「学院を出るときに彼女が大おじさまに贈ったもので、ぼくが名乗り出た後に一度彼女に返したことがある。
彼女はそれを開かずにまたぼくに託した。そしてぼくはこれを君に託したい。」と言った。
テリィはアルバートの確信を持っている様子に、その言葉の意味を全く理解できなないまま受け取った。
「ぼくはその意味がわかるから君に託すんだ」とアルバートは謎めいたことを言った。
そして「このことはキャンディにはナイショだよ」と微笑んだ。 
 
日記を手にして不思議そうな表情をしているテリィにアルバートは思わずこういった。
「君たちが羨ましいね。」
「どうしてですか?」
テリィは自分たちの全ての事情をわかっているアルバートが、そういうことには疑問だった。
「すいぶん離れていたけど、二人とも変わらないでいたんだね。一途で純粋でいいね」
テリィにはアルバートが何かを思い出しているように思えた。
 
アルバートさんにも何かあったのだろう。
彼には彼の事情があるんだな。
テリィはふと、アルバートに自分の父を重ねた。
そして自分が自由に生きられることを改めて感じ、このように意図して育てたと思われる父に感謝をした。
 
テリィは帰宅し、渡された日記をどうしようかと思い悩んだ。
キャンディの学院時代の日記―。
読んでいいものかどうかと決めかねたが、一旦開いたら、彼の目は彼女の筆跡を自然にたどっていってしまった。 
テリィは読み終えた時、アルバートの言葉の意味を理解し、かすかにあった小さな嫉妬はなくなっていた。
 
 
 
 
後は、次にします