テリィの気持ち、キャンディの気持ち 【11】 (三銃士 と 騎士) | 水色のリボン

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***** 小説キャンディキャンディ FINAL STORY (長い物語のかけら 18) *****
 
 
テリィ・キャンディ編の11回目。  
*(注意)いち個人の妄想とご理解のうえ、軽く流してお読みください。
 
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大おばさまは、キャンディとテリィの婚約にいい顔をしなかった。
それは彼の職業が俳優である事、彼が長く婚約していたのに結婚をしなかった過去があったためだった。
もちろんアルバートは熱心に説得をし、アニーも心をこめて何度も訴えた。
そしてアーチーも。「彼は学院では院長も一目おくほどの生徒だった」と口ぞえした。
大おばさまはずっとキャンディをアードレー家の人間として認めることはなかった。
その態度は一貫したものであった。
なので、「キャンディがアードレーの名前を名乗らなくなることはよいこと」と思い、ようやく認めたのだった。
 
 
アルバートがいっていたとおり、シカゴで顔合わせのための昼食会が行われる事になった。
キャンディはテリィに久しぶりに会える喜びを隠すことができなかった。
そんなキャンディをアニーもアーチーもうれしそうに微笑んで見ていた。
アーチーにとってキャンディは忘れる事のできない「初恋の人」であり、ずっと幸せを願っていた人だった。
勿論アーチーはアニーを深く愛していた。かわいいベビーもかけがえのないものだった。
親にもなったアーチーは、人にはいろんな「愛」があり、それは人生を豊かにするものだと思っていた。
キャンディの相手がテリィだった事には驚きが最初あったが、そうだろうと納得をした。
10年の別離を経て結ばれることに、馬小屋事件のときに感じた「テリィの本気」は変わらなかったのだと思い、「やっぱりあいつにはかなわない」とアーチーはわだかまりを感じつつもようやく白旗を揚げる気になった。
 
 
テリィを迎えに行く時、「キャンディだけだと心配だ」と言って、アーチーは付き添った。
それはカムフラージュもあった。そして、それはやはりいろんな意味で正解だった。
シカゴに到着したテリィはキャンディを確かめるとうれしそうに微笑んだが、その隣にいる見覚えのある男性に気付くと、一瞬にしてその表情は引き締まった。
「キャンディ、久しぶり。迎えにきてくれてありがとう」テリィはそういい、アーチーを見た。
「君は確か、寮の隣の部屋の?」やはりテリィは人の名前を覚えていなかった。
「アーチーボルド・コーンウェルだよ。ひどいなあ、ぼくの名前を覚えていないのか?人の顔をなぐっておいて」
アーチーはテリィが外見的にはひと回り大きくなり逞しくもなり、その表情は精悍で魅力的だと認めた。
が、学院時代と全く変わらない彼の特性に急におかしくなり、笑いが止まらなかった。
「そんなことがあったか?」とやっぱり覚えていないテリィに、キャンディも笑った。
 
 
ジョルジュの運転する車に3人は乗り、窓にはシカゴの町の景色がゆっくり流れていった。
「事務手続きはどんな感じなの?」キャンディは聞きたい事を聞いた。
「まだだ。もしかしたらイギリス公演のときに直接受け取る事になるかもしれないな」
「え~、それって来月よね」キャンディはまだまだ先は長いのだと改めて思った。
「しょうがないよ。海を隔てているんだから。おれは直接父さんに会って伝えたかったんだけど」
「…!」キャンディは意外なことを聞いた顔をしてテリィを見た。
「なんかおかしいことでも言った?」
「今更だけど、お父様は認めてくれるのかと思って。あなたは名前を捨てたのだし、あの、俳優にもなっているわけだし」
キャンディはテリィから詳細を聞いたことはなかったが、感じていたままを言った。
テリィは心配そうなキャンディを安心させるように微笑んでこういった。
「それは大丈夫だ。前のイギリス公演のときに俳優になってから初めて会ったけど、俳優であることを認めてくれていた。君とのことも、ちゃんと詳細がわかるように手紙を書いた。きっとわかってくれる」
テリィには確信がもてていた。それを感じたキャンディは「そうなの、よかった」と言って微笑んだ。
キャンディはテリィと父の関係が何らかの変化をしていると思い、テリィの表情からもそれが明らかでほっとした。
 
 
アーチーはふたりの会話を聞きながら、テリィはきわめて普通の常識をもち、「グランチェスター」の名前を捨てて俳優をしていることに今更気付き、その意味することに驚いていた。
(テリィは父親の反対があるのに俳優になったのか。だから名前を使っていなかったんだ)
アーチーは、だからあの時テリィはアメリカへ渡ったのだと初めて理解した。
そして自分には到底出来ない事を彼はなし遂げたのだと思った。
(ぼくがコーンウェルの名前を捨ててまでやりたいことなんて今まであっただろうか?)
新たに知るテリィの事実に(全く、なんてやつなんだ)と笑うしかなかった。
 
キャンディとテリィの婚約の報告を聞き、アーチーは初めてテリィについて考えた。
テリィはキャンディを守るために学院を辞め、俳優を目指し異国アメリカに渡り、ひとりで今までやってきたのだ。
それが容易なことではないことはわかっていた。
学院時代は「貴族の息子」とちやほやされ、わがまま放題の不良少年でとんでもない問題児だと思っていた。
しかし、そうではなかったのだ。
テリィは自分よりはるかに強い意志があり、実力だけの世界で多くの人に認められるようになったのだ。
それは彼の持って生まれた容姿と才能と、多くの努力があったことは明らかだ。
そして、あの状況の中でキャンディをかわらずにずっと思い続けた―。
 
そもそもキャンディだってすごい人だとアーチーは思っていた。
どんな状況にいてもいつも明るくて、すべてのことをきちんと受け止め、それから逃げることなく、どう進もうかと考えられる。
どんなときでもキャンディは常にキャンディであって、自分自身を見失うことは無い。
養女を解かれる覚悟で自分の生きる道を決めたこともあったし、彼女は早くから自立していた。
そう考えたら、キャンディとテリィは似ていると思えた。
自分はキャンディを受け止めることなんて到底出来ないと随分前からわかっていた。
きっとキャンディにはテリィしかいなかったんだ、そうアーチーは思い至った。
「キャンディを守る騎士はテリィだった」とようやく自分の「三銃士」の任務が終わる事を感じた。
きっとアンソニーもステアも安心してふたりの幸せを祝福するだろう、そう思った。
 
「そうだキャンディ。アードレー家のこと、少しは教えてくれ。おれは何も知らないんだぞ」テリィが言った。
「あ、そうだったわね」キャンディが思い出したように言った。
「キャンディ、まだ何も言ってないの?」アーチーが驚いたように言った。
「だって、会っていたのは数時間だけだもの。だから話す時間が無かったの」
「ええ?!」アーチーが声を高くした。
アーチーには信じられなかった。10年会っていなかったのに、わずか数時間でふたりが将来を決めたことが。
そして平然と挨拶に向かおうとしているテリィに(本当になんてやつだ!)と思うしかなかった。
「じゃあ、ぼくがかいつまんで説明するよ。やっぱりついてきてよかった」
アーチーはテリィにアードレー家の歴史・事業について必要だと思われることを説明した。
キャンディはすごく感心し、「アーチーって本当に仕事をしているのね」と言った。
「なんだよ、ひどいな。どう思っていたんだよ」
「だってオシャレなイメージが強いんだもの。きっとすごーくオシャレして仕事しているんでしょ?」
「それは正解だけどね!」といってアーチーは笑った。
「アーチー、ありがとう。これでなんとかなるだろう」テリィは感謝を述べた。
そして、「君がいて本当に助かった。キャンディと違って君は間違いないから」と付け加えた。
「失礼しちゃうわね、あなたはひと言多いわよ」とキャンディはふくれてみせた。
ジョルジュも思わず微笑むほど、車中には和やかな空気が溢れていた。
 
 
車窓からエルモアシアターが見え、「あっ」とキャンディが声を上げた。
「あの時、リア王だったわね。ちゃんとした席で舞台みたかったな」キャンディはため息をつきながらそういった。
テリィはエレノアから頼まれたチケットのことを話そうかと思ったが、もっといいタイミングがあると思って今はやめておいた。
「そうだったよね、大おばさまのせいでみられなかったな」アーチーがいたわるように言った。
「まあね、しょうがないことだけど。あれはほんとに困ったわ。せっかく抜け出してきたのにって」
「大おばさま…」テリィはその言葉で、アルバートさんの『ちょっとうるさい大叔母』を思い出した。
「『ちょっとうるさい大叔母』ってその人か?キャンディ」テリィが聞いた。
「『ちょっとうるさい大叔母』?!誰がそんなこと言ったの?!」キャンディはびっくりして聞いた。
「この前アルバートさんが。『ちょっとうるさい大叔母がいるからシカゴに来てくれって』」
「…ぷっ」ジョルジュが思わず笑った。
「正解だけどそれは禁句だ、テリュース」アーチーが笑いながら言った。
「それに『ちょっと』じゃなく『かなり』に訂正しないといけないな!」と言った。
 
「アーチーは大おばさまの反対を乗り越えてアニーと結婚したのよ」キャンディがしみじみと言った。
「へえ、君は見た目とは違って結構熱いやつなんだ」意外そうにテリィが言った。
「君にそういわれるなんて、実に光栄だね」アーチーはそう返した。
「アニーって…」そういいかけたテリィに、キャンディもアーチーも注目した。
「おとなしそうで、しんの強そうな子、だったな」
「…ちゃんとわかっているのね」キャンディがそういった。
「おれは人を見る目はあるよ。…だからステアが亡くなったことは本当に残念だ。また会いたかった。」
「…兄貴も君に会いたかったと思うよ」アーチーが静かに言った。
「どうして?」
「兄貴はキャンディの幸せをずっと願っていたから。君しかいないとわかっていたようだった。今となればだけど」
テリィは馬小屋事件の後のステアの言葉を思いだした。幸せになってもらいたい…と言っていた。 
「じゃあしっかり君を守らないといけないな」そういってテリィはキャンディを見た。
キャンディはその瞳を受け止めて、微笑んだ。
 
ようやく車はシカゴ郊外のアードレー家に到着した。
みんなにひととおりの挨拶をしたあと、テリィはアルバートさんに改めていいたいことがあるから時間を少しもらえないかと声をかけた。
テリィとキャンディは応接間に通され、アルバートを待った。
「テリィ、何なの?」
「君は覚悟があるんだったよな?」
「ええ」
「だったらいいんだ」
 
すぐアルバートが現れ、「いいたいことってなんだい?」と聞いた。 
テリィは口を開いた。
「今後のことですが、結婚の事実を公表したらいろんなことが起こると思います。
おそらくアードレー家にもアルバートさんにもご迷惑をかけることになると思います。
それをどうか許していただきたいのです。おれは事実を隠すつもりはありません。
ですから、彼女にも辛い事があるかもしれませんが全力で守ります。
それを知ったうえで、改めてアルバートさんに結婚を許していただきたいのです」
テリィはアルバートをまっすぐに見た。
アルバートはちょっと考えて、二人を見やって微笑みながらこう言った。
「君との結婚は彼女が決めた事だ。前にも言ったがそれは彼女の意志に任せている。
アードレー家に生じるであろう問題だが、悪いが僕もそれは考えてはいたんだ。
それは気にするほどのことはないと判断している。
テリィ、君は許可がほしいわけではないだろう?君はすでにそう決めているのだから。
報告として聞いておくよ。君の気持ちは充分にわかった。
僕は君たちふたりの幸せを祈っている。今までもいろいろあったけれど乗り越えてきた君たちだ、今回もそうできるはずだ」
テリィはそれを聞いてふっと笑ってこういった。
「アルバートさんはそういうと思っていましたよ」
「テリィ、君ってやつは。確信犯だな!」
そういってアルバートも笑った。
 
キャンディは漠然とあった覚悟を更に意識した。
 
 
 
 
 
 
後は、次にします。