テリィの気持ち、キャンディの気持ち…⑨(理解) | 水色のリボン

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***** 小説キャンディキャンディ FINAL STORY (長い物語のかけら 16) *****
 
 
ある本を読んだ事をきっかけに、再び妄想が復活。
いろいろ思い浮かんだことを書き残しています。
 
テリィ・キャンディ編の9回目。  
*(注意)いち個人の妄想とご理解のうえ、軽く流してお読みください。
    
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テリィはエレノア邸から自分のアパートに帰ってきた。その手には「象嵌細工の宝石箱」があった。
彼はつい先ほど知った事実にまだ動揺をしていた。
 
自分が生まれた後に、父さんが母さんにこの宝石箱を贈った―。
それは代々グランチェスター家に伝わるものだった。
彼は屋敷でこのようなものを見た覚えがかすかにはあった。
しかし、ここまで大きくて豪華なものは見たことがなかった。
 
母はこうも言っていた。
代々伝わるものだから、大事な人に贈る物なのだと。
受け継いでいくものなのだと。
それは、母さんは父さんに愛されていたということだ。
そして、おれが生まれてから贈られたということは、いずれはおれが受け継ぐことを願っていたということだ。
  
 
テリィは父と母の詳細を直接聞いた事はなかった。周囲からの噂を自然に耳にしていたのだ。
『父は新人女優の母との恋をひた隠しにし、おれを母から奪い取り、母を捨てた』と。
そして、父はおれに一度も向きあおうとはしなかった。
おれは何度も父に反抗して言葉をぶつけたが、いつも冷たくあしらわれていた。
 
 
もしも…。
もし、父がおれを引き取らなかったら、母は女優として成功しなかったかもしれない。
おれがいなかったから、母が女優業に専念できたのは確かだ。
おれがいたら全く違うものだったろう。おれも隠されて育ったかもしれない。
 
おれは引き取られたから、汚いものでも見るような環境ではあったが、何不自由なく過ごしてきた。
様々なことを習わされ、貴族の子弟としての教育も受けさせられ、義兄弟とかわらない環境で育った。
そして、あの学院で過ごせた…。
 
「ひきとらなきゃよかっただろう」と言ったとき、父はいつもこんなことを言っていた。
【嫌なら名前を捨ててもかまわない。路頭に迷ってもいいのなら。お前は跡継ぎではないのだから】
 
貴族の跡継ぎは普通は長男がなるものだ。おれは正妻の子でないにしろ長男ではあった。
もし跡継ぎだったら、おれはおそらく先の戦争に行ったに違いない。
それは今のおれとは全く違う人生で、俳優になる選択はないだろう。
跡継ぎではなかったから、名前を捨てて俳優になることができたんだ。
 
父は名前を捨てて、俳優をしているおれを認めているようだった。
それはイギリス公演のときの父の様子が証明していた。
あのときの優しい目、穏やかな口調。それは以前とは全く違った。
 
 
どういうことなんだ…。
 
 
もしかして、父は母を愛していたから別れたのか…。
あの時別れたから、母は女優業に専念できて大女優になれた。
母の才能をわかっていたから、あえて冷たく別れ、おれを引き取った。
 
そして、おれをあのように育てたのはおれを自由に生きれるようにするためだったのか…。
貴族の子弟として育てながらも、そう生きる事を父が強要しなかった事は確かだ。
そして、俳優をしているおれを認めていた。 
 
 
父の言ったとおりになっているような気もするな…。
おれは父に反抗し、グランチェスターの名前を捨てて、自分の道を見つけて生きている。
そして、本当に愛するとと生きようとしている。
  
もしかしたら、これは父がかつてそうしたかったのか…。
父は母と一緒にいたかったが、父には父の事情があったのだろう。
その中で父なりに選択をしたのだろうか。
 
人はひとつの生き方しかできない、それは今のおれには充分わかる。
父は父の人生を、父なりに選んで生きてきたのだろう…。 
 
 
テリィは父をひとりの人間として見られたような気がしていた。
父は母を愛していた。そして、おれが生まれたこともうれしかったのだ。
おれをあのように育てたのも、父の意志があったと思える。
 
 
母から譲られた象嵌細工の宝石箱が、彼にそのことを伝えてくれた。
 
 
 
 
テリィは象嵌細工の宝石箱をぼんやりと眺めた。
何百年の長きに渡り、いろんな人がこれを手にしてきたのだろう。
父も母も、どんな想いでこれを見ていたのだろうか…。
 
 
そして、おれはこれをキャンディに贈る―。
そのとき彼女はどう思うだろう…。 
 
キャンディ…、
キャンディは今何をしているのだろう。 
 
 
テリィはNYへ戻ってから、彼女を思い出さない日はなかった。
ポニーの丘で過ごした数時間がまるで夢のようだと彼も思っていた。
しかし現実だった。それは彼もちゃんと記憶していた。
 
一緒に暮らせる日が確実に来る、それはずっと彼が願っていたことだった。
自分のそばで幸せに暮らす彼女がようやく見られる―。
そのためには、やるべきことがまだ残っていた。
 
 
彼はイギリスの父に手紙を出した。
それは結婚の手続きのために出生証明書が必要だったからだ。
結婚の報告をこのように手紙ですることには気が進まなかったが、しょうがないと諦めた。
 
彼は早く手続きを済ませたかった。
昔はそんなことを気にもとめなかったことがあったと思い出した。
大人になるとは、いろんな面倒があるものだと彼は思った。
でも、だからこそ、キャンディをしっかりと守りたいと思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
あとは、、次にします。