テリィの気持ち、キャンディの気持ち…⑤(五月の丘・中編) | 水色のリボン

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***** 小説キャンディキャンディ FINAL STORY (長い物語 の かけら 12) *****
 
ある本を読んだ事をきっかけに、再び妄想が復活。
いろいろ思い浮かんだことを書き残しています。
 
テリィ・キャンディ編の5回目です。  
 
(注意)いち個人の妄想とご理解のうえ、お読み下さい 
 
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テリィは心に決めていたように口を開き、スザナとのことを伝えたい、とキャンディに言った。
キャンディは手紙を出してから、この時のために心の準備をしていたような気がしていた。
スザナの事―それは自分が知りたかったこと、聞きたかったこと、だ。
そして、テリィはこのことを直接私に伝えたくて、今日ここに来たのだとわかった。
 
 
テリィはキャンディの様子を確認するように見て、話を続けた。
「おれとスザナは婚約していた。それはもうかなり前のことで、長くその状態が続いていた。
婚約は普通結婚を前提にするものだけど、おれたちの場合は違った。
そして、それはスザナが言い出したことだった」
  
キャンディは息を詰めて聞いていた。初めてテリィから聞く真実―。 
  
「一緒に住んでいたから、婚約という形をとったら周囲が静かになるだろうという事だった。
そして、結婚を望んではいないとスザナははっきりとおれに言ったんだ。
一緒にいたいけど、それは考えていない、と。
おれは一緒にいると決めていたから、それに同意した。そして、その後も本当にそれだけだった。
彼女はいろんな人から、結婚しないことを指摘されてもいたけど、いつも明るく軽くあしらっていた。
婚約時代が楽しいからそれを楽しんでから、いつもそんなことを言っていた」
 
キャンディは初めて聞くその内容に、ただ驚きを感じていた。
スザナがそんなことを―。
スザナは本当にテリィを愛していたことをまた改めて知ってしまった気がした。
 
「婚約はしていたけれど、実情はそういうことだった。
おれはスザナとは10年も一緒に同居していたけれど、彼女に対して愛情を持つ事はなかったんだ。」
 
テリィははっきりとそういった。
それは、キャンディがどこかで思っていたことでもあった。
 
 
「でも、嫌いではなかったのも事実だ。彼女は順調に回復をして元気になった。
いつも明るく振舞っていて、おれに対しては以前と同じで、劇団仲間といった感じだった。
おれが一時劇団を辞めて旅に出て戻ってきたときも、それは全く変わりなかった。
何があっても彼女は取り乱すこともなく、平静だった。そんな強いところが彼女のいいところだったと思う」
 
自分が思ったとおりのスザナの様子に、キャンディは胸が痛くなった。
 
「おれが劇団に戻ってまた一から出直せることになってから、おれはずっと自分のことしか見えない状態になったんだけど、そうしているうちにある日彼女から「なにか私にできる仕事はないかしら」と相談された。
団長にそれを伝えたら、彼はスザナの才能と人柄をとてもかっていたから親身になって世話をしてくれた。
そしてスザナは仕事を始めた。それは彼女の才能をとても活かせることで、何より彼女を認めてくれる人が多くいたから、彼女はそれが生きがいのようになり、とても熱心に取り組んでいた。それは本当に楽しそうだった。
女優をしていたときと同じくらいに自信にあふれていた。」
 
テリィは記憶をたぐるように続けた。
 
「だけど、知らないうちに恐ろしい病魔が彼女の体をむしばんでいた。
それはとても辛い闘病生活だった。
でも彼女は痛みにも死の恐怖にも全く恐れをもたないように、いつも強く優しく穏やかだった。
そして、そんな状態の中で自分の人生は幸せだったといっていた。夢中になれる仕事に出会えたから、と。
あの事故でいろんなことがあったけど、それがあって今の私がいる。今の私が好きで、今が私の幸せだと。」
 
「え…」
キャンディは思わず声を上げた。
 
テリィはキャンディをいたわるように見て続けた。
「きっと、わかっていたんだろう。自分の命に期限があることを。だから、伝えてくれたんだと思う。
おれの気持ちを軽くするためもあったと思う。でも本当に幸せそうに見えたよ。
こんなことも言っていた。あの怪我で、いろいろ知ることが出来た、と。」
 
「そんなことを…」
 
「スザナは、本当に強くて優しかった。…おれに何も求めることもなかった。
おれは彼女にちゃんと向き合ったけれど、そばにいることしか出来なかった。結局何もしてあげられなかった。
それは紛れもない事実だ。」
テリィは小さく息をついた。
 
 
「…でも、きっと幸せだったと思う」
キャディは呟くように言った。
 
「え?」
 
「命を懸けてまで愛していたあなたのそばにずっといられたことが。そうだと思う…」
キャンディは涙が知らないうちにこぼれていた。
 
「キャンディ…」
 
「病名は知らないけれど、死に至る病がどんなに辛いものかは想像できる。
それなのに穏やかに優しくいられるなんて…。幸せだったといえるなんて…。
スザナはあなたを本当に最後まで愛していたのね…」
 
「…」 
テリィはじっとキャンディを見た。
 
「…どうして、愛せなかったの」
思った言葉が口からこぼれおちた。
キャンディはすぐに、言ってしまった、と思った。
 
 
もし彼がスザナを本当に愛したなら、それはとても辛い事だけどいいことだと思っていた。
スザナは本当に彼を愛していたのだから。
今、テリィから聞いた事実でもそれは確かだった。
スザナは本当にテリィを心からずっと、何も求めないで愛したのだ。
そして幸せだと言い残して亡くなったのだ。
そのことを今、こんなにわかってしまった―。
 
それは私も彼を愛しているから、だ。
だからスザナの気持ちがわかるのだ。
  
 
「キャンディ。おれはずっと君だけを想っていたんだ」
それはきっぱりとした声だった。 
 
「人を想う気持ちはどうしようもない。おれは君を想う事をやめられなかった。
二度と会えないとわかっていてもそうだった。
あんな別れをしてしまったけれど、おれは君を忘れることは出来なかった。
キャンディ、君をずっと好きだった。」
テリィはキャンディを真剣に見すえてはっきりと言った。
  
そうなのだ。
私もテリィをずっと忘れられなかった。
だから、あの手紙を出したのだ。
 
 
「キャンディ、君はどうなんだい?」
  
「…」 
  
「おれが君を忘れられなかったように、君もそうだったんだろう?違うのかい?
おれは君からの返事をもらってそうだと思った。
君はおれをどう思っているのか聞かせてほしい」 
テリィはキャンディへの視線を更に強くした。
キャンディはそれから逃れることはできないと思った。 
  
「…そうよ」
キャンディはつぶやくように言った。
  
「私もあなたのことが忘れられなかった。忘れようとしたけどできなかった。
だからずっと想っていた。
あなたが幸せならそれでいいと思っていた。」
  
テリィはほっとしたように肩をおろした。
  
「おれは君を想っていたけれど、あんな別れ方をしたんだ。
だから、たとえスザナが死んだからといって、君に会えるものではないと思っていた。
会いたくても、それは到底できないことだ、と。」
  
キャンディははっとして顔をあげてテリィを見た。
それはずっと気になっていたことだった。テリィに聞きたいことだった。
あの手紙を出せた理由―。
 
テリィはキャンディを見やって、静かに続けた。
 
 
「スザナが亡くなった時、おれは初めて現実の死というものを知ったんだ。
今までそれがどんなものか知らなかったんだ。
いろいろ演じてきて、経験もあると思っていた。
でも、自分に深く関わり、愛してくれた人の死を実際に迎えて、おれは初めて現実の死を感じたんだ。
…信じられないだろう?今までおれはだれとも深く関わってこなかったから。 
スザナの死で、ようやくおれは気付けた。
死ぬということは、もう二度と会えないことなんだ、と。それがどんなに哀しい事なのか、と。 
そして、生きている自分を強く感じた。
おれは生きている、と。生きているなら、どう生きたいかと考えた。
君と一緒に生きていきたい、と強く思った。
だから、君に手紙を出した」
  
手紙を出せた理由、それはキャンディがとても知りたいことだった。
そして、それは思ってもないことだった。
キャンディはそっと目をそらした。
  
「キャンディ、おれはこれが言いたくて今日ここに来たんだ。」
テリィはキャンディを切なげに見て、おさえた声でこういった。
  
「君の今の気持ちが知りたい。」
 
「…私は」
キャンディは言いよどんだ。
急にいろんなことを知り、キャンディは混乱していた。
 
 
知りたかったことは、もう充分すぎるくらいに知ってしまった。
すると、自分の気持ちがはっきりとは見えなくなってしまった。
 
でも…、
真実を知ったからといって、私の何が変わるのだろう…。
私の気持ちは決まっていて、それは変わることはない…。
テリィを想う気持ちは、何があっても変わることはないのだから…。
どんなテリィでも、私は好きなのだから…。
 
スザナの事実は今の私には重すぎる―。
 
私はそれを忘れる事などできはしないのだ。
それがキャンディの心をきつく締め付けていた。
 
 
テリィはキャンディの迷いを読み取ったように、優しく言った。
 
「キャンディ、おれはもう何も迷ってはいない。
君と生きることはもう決めたことなんだ。おれはそれを変えられない。」
 
「…テリィ」
 
「君が迷っているならそれでいい。どんなキャンディでもいいんだ。
おれは君と一緒にいたい。それだけなんだ。」
 
キャンディはテリィをぼんやりと見あげた。
それを受け止めてテリィは続けた。
 
「さっき言っただろう。君を好きなことはやめられない。どうしようもないことなんだ。
君が迷っているからといって、それでおれが君を諦めるなんてことは絶対にないんだ。
これからはずっと一緒にいる。おれが君を守る。それじゃだめか?」 
 
「…」
 
「それが君の迷惑じゃないなら、おれは喜んでそうしたい。」
 
「…テリィ」
 
思わずキャンディはテリィの腕に飛び込んでいった。 
テリィはしっかりと受け止めた。 
 
キャンディは涙が溢れて止まらなかった。
どうしてこんなに泣けるのか分からなかった。
ただ、自分を受け止めてくれる人がいることが、どうしようもなく安心できて、涙を溢れさせるのだった。
テリィはずっと黙ってキャンディを包んでいた。
そして、キャンディは自分にそっと触れた彼の指先が、彼が言わなかった言葉を伝えているような気がした。
 
 
5月の風が二人を優しくなでていった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 後は、次にします。