彼の写真を、皆さんは知らず知らずのうちにどこかで目にしているはずだ。穏やかな表情で、くしゃっとした笑顔が印象的なのは、カメラ片手に世界中を飛び回るスポーツフォトグラファーの、田沼武男さん。彼の写真は文字通り躍動感に溢れ、瞬く間に見た者の心をワクワクさせ、一気に試合会場へと誘ってくれる。 テニスプレーヤーを目指していたが、1978年にスポーツフォトグラファーに転身。その行動は実にドラマティックで、まずアメリカに行き古い車を買い、アメリカを縦横無尽に走りながら写真を撮り日本の雑誌社へ送った。レンズのピントを合わせたのは、彼を魅了して止まないテニスだった。1984年のロサンゼルスオリンピックを境に活動を広げ、ゴルフ、サッカー、野球、F-1、水泳、ヨット、マラソンなど数々のスポーツの試合へも足を運んだ。ニッポンチャレンジ(世界最大のヨットレース、アメリカズカップに挑む日本のヨットチーム)ではオフィシャルフォトグラファーを担った。また近年はスポーツ以外にも、六本木ヒルズから東京を写した写真集「TOKYO 30年以上のキャリアを持つ彼は、その半生で「天才」と呼ぶに相応しい人達に出会った。史上最速、最高と謳われたF-1の故アイルトン・セナ、テニスのジョン・マッケンロー、さらに日本でテニスと言ったら一番の有名人であるクルム伊達公子もその1人だと言う。“他の人が見ても分からないかもしれないが、自分だけはその「天才」要素を直感で分かる。”その「天才」に出会ったときの興奮こそが、生涯に渡り、光り輝く喜びであり、彼にとっての「金メダル」なのだ。くしゃっとした笑顔の黒い瞳の奥には、そのスポーツやその選手が持つ内なる本質を掴む、唯一無二の能力が潜んでいる。 |
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