Adieu Romantique No.617
『POP SONGの魔法を信じるかい? 』
まだまだ暑さは続いているけど(いつもならもうそろそろ秋の気配を感じ始める時期なのにな)、8月もあと少し。
そんな曖昧な「夏の終わり」には、何故だかPOP SONGが無性に聴きたくなってきたり。
「POP SONG」って。とても素敵な響きをもっている。この言葉を口にしただけで、愛とか夢とかノスタルジーだとか、ロマンティークがいっぱいに溢れ出してくるから。それはきっと音楽に魔法がかけられているからかなって思うんだ。
そもそもPOP SONGっていうのは音楽のジャンルじゃなく、(あくまでも僕のイメージだけど)アナログ・レコード時代に7inchのシングル盤(その形状からドーナツ盤とも)としてカットされたヒット曲だったり、アルバムのオープニングを飾って「早々と聴く人の心を掴むための」曲だったり。分かり易くキャッチーな(基本的に)「洋楽」を指している(対して日本のは「邦楽」なんて呼ばれて、ちょっぴり恥ずかしい)を指す。
遠い昔に。ラジオやジュークボックスや喫茶店の有線放送から時代も何も関係なくランダムに流れていたような、2分から長くても5分程度で完結し、耳にすーっと入ってきて心のどこかで留まっているような音楽。たとえ曲名やアーティストが分からなくても、いつか、どこかで聴いたことがあると思うような、とても懐かしくて郷愁を誘うような、そんな音楽なんじゃないのかな。
まぁ、できるなら。(これも僕の勝手な妄想だけど)今でも街の片隅にひっそりと佇んでいるような(入口の扉に「カランコロン」って鳴る鈴が付いているような)古びた喫茶店や、人が少なくなった浜辺でラジカセかなんかで聴きたいような気がする。
そのようなことで。今回はもうずいぶん前に書いたブログ『POP SONGの魔法を信じるかい?』の拡大re-mix版。そう。僕はいつもいつもアヴァンギャルドな音楽やオルタナティヴな音楽、敢えて人があまり聞かないような変わった音楽ばかりを探して聴いている訳じゃないというようなことも付け加えておくね。
タイトルに使った「魔法を信じるかい?」という言葉は、もともとはジョン・セバスチャンが率いたグループ、ラヴィン・スプーンフル【Lovin’ Spoonful】が1965年にリリースした曲の日本語タイトルから引用している。原題は『Do You Believe In Magic』。なのでほぼ直訳と言えるのかも。そもそも日本オリジナルのシングル盤ジャケは即席でテキトーなデザインのものが多いし、また、曲名に日本独自のタイトルが付けられることも多いけれど、それはそれでノスタルジーが擽られてしまうし、日本語タイトルがこの曲のようにドンピシャに嵌まることもある。『魔法を信じるかい?』って、素敵だと思わないかい?なんて。もちろん曲自体も文句の付けようがないほどマジカルな魅力に溢れてる。
アメリカのブルー・アイド・ソウルのバンド、ヤング・ラスカルズ【The Young Rascals】の1969年のシングル・ヒット『Groovin’』を。
ビートルズ、ボブ・ディランと共に3大「B」と言われた偉大なるビーチ・ボーイズ【The Beach Boys】の、ご機嫌なPOP SONGばかりが詰め込まれた1964年のアルバム『All Summer Long』から。オープニングを飾り、シングル曲としてもリリースされビーチ・ボーイズが初めて全米No.1に輝いた『I Get Around』。それにしてもビーチ・ボーイズの音楽ってとてもロマンティックなので真夏よりもむしろ今の季節に聴くのがぴったりだと思うな。
同じくビーチ・ボーイズの、永遠の歴史的問題作であり、歴史的大傑作でもある1966年のアルバム『ペット・サウンズ』【Pet Sounds】の中に収められた名曲『神のみぞ知る』【God Only Knows】を。
📖ジム・フジーリが書いた本『ペット・サウンズ』は村上春樹が訳していて、この曲の歌詞はこんな感じに。
いかなるときにも君を愛するとは
言い切れないかもね
でも見上げる空に星があるかぎり
僕の想いを疑う必要はないんだよ
時がくれば君にもそれがわかるだろう
君のいない僕の人生がどんなものか
それは神さましか知らない
もし君がどこかに去っても
人生は続くかもね。でもそれでは
この世界が僕に示せるものなど何ひとつない
そんな人生に何の意味があるのだろう
そして。当時、この曲を聴いたポール・マッカートニーはこう言った。「これは実に実に偉大な曲だ」、「僕はこの曲がたまらなく好きだ」と。
1960年代初頭、ビーチ・ボーイズに加入する前のブルース・ジョンストンと、ドリス・デイの息子として生まれ、後にバーズをプロデュースすることになるテリー・メルチャーのデュオ、Bruce And Terryによる曲『Don’t Run Away』。その美しいハーモニーは山下達郎にも多大な影響を与えた。
ビーチ・ボーイズ・ライクなとってもいい感じの音楽。サーフィン&ホットロッドなデュオ、ジャン&ディーンのハイ・スクール時代からの友人だったゲイリー・ゼクリーが率いたイエロー・バルーン【The Yellow Baloon】の1967年のアルバムから『How Can I Be Down』を。
ハーブ・アルパートとジェリー・モスが創設した音楽レーベル「A&M」を代表するシンガー、クリス・モンテス【Chris Montez】のヒット曲『Call Me』と『The More I See You』の2曲を。
「A&M」と言えば。やっぱりカーペンターズかな。曲は『雨の日と月曜日は』【Rainy Days And Mondays】と、僕が初めて買った洋楽シングル『トップ・オブ・ザ・ワールド』。因みに。当時の英語の先生は、英語の発音を勉強したければカレン・カーペンターに学ぶべし、とやたら言ってたっけ。
さて、と。ビートルズはキリがないので今回は脇に置いて。その代わりにポール・マッカートニー【Paul McCartney】がビートルズ解散後の1971年にリリースしたソロ・デビュー・シングル『アナザー・デイ』を。
ポール・マッカートニー&ウィングスの4枚目のアルバム(ビートルズ解散後、ソロ・アルバムを入れると6枚目)『ヴィーナス・アンド・マース』からシングルカットされた、最強で最高の完璧なPOP SONG『あの娘におせっかい』【Listen To What The Man Said】を。
同じく。『ヴィーナス・アンド・マース』の次にリリースされたポール・マッカートニー&ウィングスのアルバム『スピード・オブ・サウンド』からのシングルカット『心のラヴ・ソング』【Silly Love Song】。イントロが始まった瞬間からPOP SONGのマジカルな扉が開かれる。
ビートルズ解散後間もなくジョージ・ハリスン【George Harrison】が出してきたものは3枚組の超大作『オール・シングス・マスト・パス』(1971)だった。その中からセカンド・シングル・カットされた『美しき人生』【What Is Life】。ジョージがノリまくっていた時期ならではのキラキラしたPOP SONG。
ビートルズの後を引き継いだかのようなポップ・マエストロ、トッド・ラングレン【Todd Rundgren】の名曲『Hello It's Me』。
同じくトッド・ラングレンの『瞳の中の愛』【I Saw The Light】。
トッド・ラングレンが結成したバンド、ユートピア【Utopia】が1980年にビートルズへの愛を表明したアルバム『ミート・ザ・ユートピア』【Deface The Music】から、まるでビートルズな『I Just Want To Touch You』。才能あり過ぎだよね。
それじゃぁ。イギリスのビートルズに対抗するためにアメリカが送り出したザ・モンキーズ【The Monkees】の1967年の大ヒット曲『アイム・ア・ビリーヴァー(恋に生きよう)』【I'm A Believer】を。メンバーはデイビー・ジョーンズ、ミッキー・ドレンツ、ピーター・トーク、マイケル・ネスミス。当時、日本でも放送されてた「ザ・モンキーズ・ショー」の雰囲気やノリはリチャード・レスターが撮ったビートルズの映画そのまんま。
トニー・リバース率いる、イギリスのグループ、ハーモニー・グラス【Harmony Grass】が1969年にリリースした唯一のアルバム『This Is Us』から『My Little Girl』。曲もハーモニーもとにかく魅力的。
山下達郎がリスペクトする、POP SONGアルチザン、クリス・レインボウ【Chris Rainbow】の1979年のアルバム『White Trails』から『Love You Eternally』を。因みに彼はアラン・パーソンズ・プロジェクトのアルバム制作に加わった他、イギリスの所謂プログレ・バンド、CAMELに在籍したことも。
ポール・マッカートニー直系のソング・ライティングを受け継ぐエミット・ローズ【Emitt Rhodes】の1970年のアルバム『エミット・ローズの限りない世界』から『恋はひな菊』【Fresh As A Daisy】。
同じくポール・マッカートニー直系のイギリスのSSW、ジェリー・ラファティ【Jerry Rafferty】の、1971年のアルバム『Can I Have My Money Back ?』から『To Each And Everyone』を。
ロジャー・ニコルズとのコンビでカーペンターズに『愛のプレリュード』や『雨の日と月曜日は』を提供したポール・ウィリアムズ【Paul Williams】の、ロジャー・ニコルズのプロデュースによるアルバム【サムデイ・マン】からタイトル曲を。
コーラス・ワークの天才カート・ベッチャーが一時的に結成した幻のグループ、ボールルーム解散後に結成したサジタリアス【Sagittarius】の1967年のアルバム『Present Tense』から『Song To The Magic Frog』。そしてカート・ベッチャーのコーラスの冒険はThe Millenniumに引き継がれていくことに。
1965年にロサンゼルスで結成された、ソフトロックを代表するグループ、アソシエイション【The Association】の、1967年の大ヒット曲『ウィンディ』【Windy】。60年代のPOP SONGってほんとハーモニーが魅力的なものが多いよね。
ロッド・マクブライエンと二人の女性ボーカル、ジャニー・ブラナンとキャシー・ウェインバーグを中心にしたソルト・ウォーター・タフィ【Salt Warter Taffy】の1968年のアルバム『Finders Keepers』から超ポップなタイトル曲を。
AORのルーツとも言われるブレッド【Bread】の1970年のセカンド・アルバム『On The Waters』に先駆けてリリースされ、全米No.1ヒットに輝いた『二人の架け橋』【Make It With You】。
地味にヒット曲が多いジム・クロウチ【Jim Croce】の『I Got A Name』は、1973年の、ジェフ・ブリッジスが主演したアメリカン・ニュー・シネマ『ラスト・アメリカン・ヒーロー』の主題歌。
シルバー【Silver】の1976年のヒット曲『恋のバン・シャガラン』【Wham Bam Shang-A-Lang】。
最後は。先の『恋のバン・シャガラン』と共にサーファー・ディスコでもよくかかった、カルロス・サンタナの実の弟、ホルヘ・サンタナ【Jorge Santana】の、1978年の曲『サンディー』で締め括ることに。
それにしてもPOP SONGって。(特にシングル盤は売ることが目的で制作されているから)曲そのものがいいというところが最高に魅力的だよね(もちろん、そうじゃないのもいっぱいあるけど)。
それじゃぁ、また
アデュー・ロマンティーク