Romantique No.567 『for Silent & Holy Night』 | 『アデュー・ロマンティーク』~恋とか、音楽とか、映画とか、アートとか、LIFEとか~

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僕が過去と現在、ロマンティークと感じた(これから感じることも)恋や音楽、映画、アートのいろいろなことを書いていきます。

 

 

 

                  Adieu  Romantique No.567

                     『for Silent & Holy Night


                🔔 Merry Christmas 🔔


「静寂の夜」と「聖なる夜」のために。相応しい音楽やアートやなんかを僕なりにキュレートしてみた。

 

🔔まずは。今年もまた僕が昔、書いた詩のようなもののRemix版から。

 

   『とても可愛らしいクリスマスのワルツ』

   【2023 Silent & Holy mix】

 

   耳を澄ますと

   静寂の彼方から

   いろんな音が聴こえてくる

 

   静寂の音や

   雪が降る音

   ベルの響き

   天使の羽音

   天使たちの囁き

 

   それは遠い世界から

   少しずつ

   近づいてくる…

 

   暗闇の中

   の

   真っ白な

   夜

   の

   真っ白な

   時間

   の

   真っ白な

   空間

   に

   

   Merry Christmas

 

   それは

   いたずら好きな

   天使が落書きした

 

   とても可愛らしい

   文字たちのワルツです

 

   その後ろには

   残響や

   沈黙などが

   そっと並んでついていきます

 

   それは

   愛のような

   祈りのような…

 

   それはそれは

   とても可愛らしい

   文字たちのワルツです

 

🎄途中の絵はラファエロ・サンティ【Raffaello Santi】の『システィーナの聖母』(部分)。

 

🔔音楽が。厳密に言えば、流れてくるのは沈黙である。ジョン・ケージ【John Cage】『4:33』。今回の  『for Silent & Holly Night』 のオープニングにこれ以上、ふさわしい音楽はない。演奏はこの『4:33』を1952年に初演したデヴィッド・テュードア【David Tudor】。映像の通り、テュードアは4分33秒間、何も演奏しない(けれど彼は楽譜を見てちゃんと演奏しているのだ)。映像にケージの言葉が差し込まれる。「音楽を構成するのは音と沈黙の2つであり、2つを統合すること それが作曲」「私は何も言わない。それが私の主張だから」「今、お聴きになっている曲の音量を下げて、回りの物音に耳を傾けてみてください」

 

「沈黙は無音ではない」とケージは言う。さらに。「沈黙」とは「意図しない音が起きている状態」であると。つまり。沈黙の中で誰かが咳払いをする。或いは誰かが何かを落とした時に音が響く。隣の人同士が小さな声でお喋りをする。そう。周囲にあるさまざまな音こそが「意図しない」、「偶然の音楽」(チャンス・オペレーション)なのだ。

 

🎵楽譜には沈黙が指示されている。


「沈黙」の中で。「祈り」が音楽としてあなたの耳に届くように。

 

🎄クリスマスに相応しいアートを。天才画家、パウル・クレー【Paul Klee】がOne Lineで描いた天使たち。たった一本の線からさまざまな音楽が聴こえてくるようだ。

 

 

🔔沈黙の音楽の次はエリック・サティ【Erik Satie】が1888年に作曲した「家具の音楽」『ジムノペディ』【Gymnopedies】一音一音が不器用に繋がりながら空間の中に溶け込んでいくような。小曲で構成されていて(7番まである)、1~3番までの『3つのジムノペディ』が本来のジムノペディであり、それぞれに次のような指示が添えられている。1番:「ゆっくりと苦しみをもって」【Lent et Douloureux】2番:「ゆっくりと悲しさをこめて」【Lent et Triste】3番:「ゆっくりと厳粛に」【Lent et Grave】。歌詞は付けられてはいないけど、そこにはサティの深いポエジーが溢れている。曲はその『3つのジムノペディ』アルド・チッコリーニの演奏で。

 

🎄ジャクソン・ポロックバーネット・ニューマンウィレム・デ・クーニングらと共に抽象表現を推し進めた偉大なるアーティスト、マーク・ロスコ【Mark Rothco】(1903~70)の作品。沈黙が語り、色彩が語り始める。

 

 

🔔1971年にリリースされた、オノ・ヨーコ【Yoko Ono】の愛でいっぱいの曲『ほら、聞いてごらん、、雪が降っているよ』【Listen , The Snow Is Falling】プラスティック・オノ・バンドがバックを務めている他、ジョン・レノンがギターで参加している。僕的には。この曲のタイトルはヨーコさんの「指示するアート」に習って、カヴァー写真と併せて読み解くなら「左目を掌で覆って、右目だけで雪の降る音を聞きなさい」って、そんな指示になると思っている。

 

 

🎄詩人であり小説家であり、映画作家であり、画家でもある、現在でいうマルチ・アーティスト、ジャン・コクトー【Jean Cocteau】クレーと同じくOne Lineで描いた天使を。

 

 

🔔オノ・ヨーコと親交があった偉大なる音楽家ジョン・ケージ【John Cage】をもう1曲。1976年の作品『Apartment House 1776 : Harmony No.20 , O Give Thanks』を The Arditti Quartetの演奏で。ケージの音楽は難解と言われるものが多いけれど(「難解な音楽」っていったい何だろううーんと、ふと考える)、難解なものであってもなくても。ケージの音楽はいつも「美しい」。

 

🔔僕の大好きな瀧口修造の、結晶のような詩を。

 

   『遮られない休息』

 

   絶えない翅の

   幼い蛾は夜の巨大な瓶の重さに堪えている

   かりそめの白い胸像は雪の記憶に凍えている

   風たちは痩せた小枝にとまって

   貧しい光に慣れている

   すべて

   ことりともしない丘の上の球形の鏡

 

🔔この瀧口修造の詩へのオマージュとして武満徹が書いたピアノ曲遮られない休息Ⅲ~A Song Of Love 』高橋悠治の演奏で。

 

 🎄デヴィッド・シルヴィアンナイン・インチ・ネイルズのアート・ワークを担当してきたイギリスのアーティスト、ラッセル・ミルズ【Russell Mills】(1952~)。深淵な彼の作品からはアンドレイ・タルコフスキーの映像世界や、龍安寺の石庭の日本的な「間」や「美」といったものを感じ取ることができる。

 

 

 

🔔ラッセル・ミルズとコラボ―レートしたこともあるデヴィッド・シルヴィアン【David Sylvian】の1987年のアルバム『Secrets Of The Beehive』から。『天使が詩人を夢見る時』【When Poets Dreamed Of Angels】

 

 

🎄ジャン・コクトーの映画には欠かせない存在、ジャン・マレー【Jean Marais】が描いた天使。とても味があるよね。

 

🔔マンフレッド・アイヒャーが主宰するドイツのジャズ・レーベル「ECM」の音楽は、そのレーベル・コンセプト「沈黙の次に美しい音」【The Most Beautiful Sound Next To Silence】の通りクリスマスによく似合う。ノルウェーの女性SSWであり、カンテレという弦楽器奏者でもあるシニッカ・ランゲラン【Sinikka Langeland】の2021年のアルバム『Wolf Rune』(ECM:2674)から『Eye Of The Blue Whale』を。

 

🎄この絵も「静寂の夜」かな。ルネ・マグリット【Rene Magritte】の、とても奇妙な、だけどとても美しい作品。

 

🔔これもECMからリリースされた、メレディス・モンク【Meredith Monk】のアルバム『Dolmen Music』(ECM:1197)から美しいヴォイス・パフォーマンス『Gotham Lullaby』を。

 

 🎄抽象画の巨匠、サイ・トゥオンブリー【Cy Twombly】が描いた作品はその色彩や空間から穏やかでクワイエットなものを感じるのに、そのエクリチュールからは激しい感情が溢れ出している。

 

 

 

 

🔔リュートなどの古楽演奏家ロルフ・リスレヴァンド【Rolf Lislevand】によってFrancesco Corbetta(1615~1681)の古楽曲『Caprice de Chaconne』を独自に解釈し、ECMの(現代音楽に寄った)New Siriesから2016年にリリースされたアルバム『La Mascarade』(ECM:2288)から。

 

 🎄ラッセル・ミルズもそうだけど。イギリスのアーティスト、イアン・ウォルトン【Ian Walton】の作品からも根源的な「記憶の匂い」のようなものを感じ取ることができる。

 

 

 

🔔スウェーデンのジャズ・ピアニスト、ヤン・ヨハンソン【Jan Johansson】(1931~68)による、スウェーデン民謡をジャズで解釈、演奏したアルバム『Jazz Pa Svenska』から『Visa fran Utanmyra』。このStrangeで不思議で、だけどロマンティークに響く美しさはいったい何だろうか。

 

 

🎄名和晃平【Kohei Nawa】の作品を。素材が持つ物性から観る人の知覚が開かれてゆくような。神々しいまでに美しく凛とした鹿のシリーズ。

 

 

🔔ニーナ・シモン【Nina Simone】(1933~2003)のデビュー・アルバム『Little Girl Blue』からタイトル曲を。彼女だけの、彼女にしか歌えない「祈り」のような。聴いていると魂が震える瞬間がある。

 

 

🎄再びパウル・クレーの絵を。夜の家並みを描いた、とても温かな世界。「今夜は素敵な夢を。おやすみなさい」、そんな言葉が自然に出てくる。

 

🔔「静寂の夜」「聖なる夜」を締め括るのはやっぱりこの曲で。サイモン&ガーファンクルの『スカボロー・フェア』【Scarborough Fair】。タイトルだけなら今回の記事には『サウンド・オブ・サイレンス』の方が合っているけど、個人的にはやっぱりこっち。

 

静寂の中で

深い余韻に包まれながら

 

あなたのために

僕自身のために

そして

世界のために

 

ささやかな祈りを

 

 

アデュー・ロマンティークニコ