Bar Adieu Romantique No.002 『Saravah!高橋幸宏』。 | 『アデュー・ロマンティーク』~恋とか、音楽とか、映画とか、アートとか、LIFEとか~

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僕が過去と現在、ロマンティークと感じた(これから感じることも)恋や音楽、映画、アートのいろいろなことを書いていきます。

僕の架空音楽バー

『Bar Adieu Romantique』へ、ようこそ。

 

『Bar Adieu Romantique』ではお越しいただいた方に毎回、ご挨拶代わりに僕の独り言【Monologue】を書いたFree Paperをお渡ししている。

 

          Romantique Monologue No.002

                『 Saravah!高橋幸宏』

                  

『Bar Adieu Romantique』の2回目の僕の独り言は、すでに書き始めていて準備が進んでいたけど、高橋幸宏氏の訃報を受けて急遽、差し替えることにした。

 

氏に対する僕自身の愛着や影響(それは氏の音楽だけではなく、氏のLife Styleや醸し出すMoodに至るまで、ちょっとしたニュアンスも含んでいる)、そして僕自身の引き出しの中にある「高橋幸宏」というロマンティークを放置して先へ進むことはできないから。

 

もちろん人はいつか死ぬ。それは例外なくとても確かなこと。三島由紀夫曰く「人は生まれながらにして「死」という不治の病にかかっている」と。僕自身もやがてやって来る「死」を回避することはできないし、いつ、どんな形で死ぬかなんて分からない。当たり前と言えば当たり前の話だ。だけど、その「死」について氏の家族でも何でもない僕には「悲しい」という気持ちとは異なる、まったく別の感情が溢れ出してきている。

 

タイトルに付けたサラヴァ【Saravah!】とは氏が1978年にリリースしたソロ・アルバムのタイトルであり、「神に祝福を!」という意味のポルトガル語であり、さらに言えば氏がリスペクトして止まなかったフランスの音楽家であり、SSWであるピエール・バルーが1960年代に自分が素晴らしいと思う音楽を擁護し、そういった音楽だけを世に出すために主宰した自主レーベルの呼称である。

 

僕が高橋幸宏という人を知ったのは兄貴の影響で聴いていた(聴かされていたのかも)、加藤和彦率いるサディスティック・ミカ・バンドだった。バンドの初期のドラムは角田ひろ、そしてザ・テンプターズの大口広司が一時的に務めた後、高橋幸宏に代わった。まぁ、僕はまだ子供だったので、意識的に氏のドラムを聴いていた訳じゃない。

 

その後は。加藤和彦とミカが抜けた後のバンド、サディスティックスを経て、YMOの活動と重なる時期にリリースされた2枚のソロ・アルバム『サラヴァ!』(1978)と『音楽殺人』(1980)をよく聴いた(何故だかは分からないけど、その頃のクレジットは「高橋ユキヒロ」になっている(1981年頃までは)。まぁ、そんな何気ない話も僕にとってはロマンティークなのだ

 

そして一般の人にも名前が知られるようになったYMO時代は、何よりもフィジカルな楽器であるドラムを(シンセ・ドラムを使っていたこともあり)汗も流さず、Coolでスタイリッシュに淡々と演奏している姿に憧れた。少し大袈裟に言わせてもらえるなら、ドラムという楽器が持っていた、それまでの絶対的価値「マッチョイズム」を解き放った瞬間だったのかも知れない。

 

ソングライターとして、いくつもの素敵な曲を書き(YMOの有名な曲はほとんど氏が書いている)、ボーカリストとしても(決して上手いとは言えないものの)独特な歌唱法でYMOのメインで歌った。またファッション・ブランド「Bricks Mono」のデザイナーを務め、YMOのツアーのステージ衣装にも使われたり、当時、世界的なブランドであった「Y's」の創設者でありデザイナーでもある山本耀司と長く親交を深め、ファッションショーの音を担当するなど、YMOの中では特別ファッショナブルな存在でもあったし(とにかく。ファッションに関しては細野さんも坂本龍一も……だったからなうーん)、YMOとして「オレたちひょうきん族」に出演したり、当時、ブームだった漫才番組「THE MANZAI」に「トリオ・ザ・テクノ」という名前でトリオ漫才を披露してくれたことも。

 

その後も。氏の活動はずっと継続していく訳だけど、その経歴を紹介するための独り言ではないのでここまでにしよう。

 

とにかく高橋幸宏と言えばドラムが上手くて(というより。坂本龍一が言うように、リズムのKeepの仕方が正確無比だ)、とてもセンシティブありロマンティスト。お洒落でカッコよく、ユーモアがありながら、どこかで常に「ハニカミ」のようなものを感じさせた。そういうことのすべてが氏に対する昔も今も変わらない印象であり、(僕が想う)高橋幸宏の魅力である。

 

そう。僕らは覚えておくべきだ。(特に)1980年代という時代に(氏は30歳代だった)。その音楽を中心にした新しい考え方や行動で若い人たちを惹き付け、自分自身が面白がりながら楽しみながら、当時の若者たちの憧れであり、時代をリードし続けた、そんなカッコいい「大人」がいたことを。

 

 

 

カッコいい「大人」でありながら、永遠のロマンティーク少年であった高橋幸宏氏のご冥福を心から祈ろう。

 

 

                 「Bar Adieu Romantique」店主より

 

そろそろ『Bar Adieu Romantique』のオープンの時間だ。

 

高橋幸宏とは関係ないけど。取り敢えず『Bar Adieu Romantique』ではプチ企画展の2回目『今年の干支にちなんで。兎アート・コレクション②~不思議の国のウサギたち~』を開催することに。世の中にはほんと面白いイマージュを持ったアーティストが大勢いるとつくづく思うなうーん
 
🐇これは不穏過ぎだろ。ティル・ゲルハルト【Till Gerhard】の、犯罪スレスレのような兎画を。
🐇ウーノ・モラレス【Uno Moralez】はロシアのアーティスト。ウサギの表情も怖いけど、それ以上にメイドの女の子の方がもっと怖い。「彼女は後ろに何を隠し持っているのでしょうか?」。あれこれ想像するだけで『Bar Adieu Romantique』では素敵な会話が生まれるんだ。

🐇萌木ひろみ【Hiromi Moegi】が描いた「兎画」を。少女といっしょに「うさんぽ」に出掛けようとしているのは骨格標本のようなウサギ。ダークな世界なのに、どこかしら可愛い。

🐇ドミニク・マーフィー【Dominic Murphy】「不思議の国のアリス」的ウサギを。
🐇有村佳奈【Kana Arimura】が描いたイノセントなウサギ少女。とてもセンシティブな世界。

🐇小川香織【Kaori Ogawa】が描く「Usa-World」では「KAWAII」エロティシズムが美しく同居している。

🐇「不思議の国のアリス」からのイマージュ。ポップ・シュルレアリスムな七戸優【Masaru Shichinohe】が描いたウサギ。
🐇ポップ・シュルレアリスムのパイオニア、マーク・ライデン【Mark Ryden】が描いたお肉屋さんのウサギを。満面の笑顔だし。実にダークだよね。
🐇Audrey Pongraczの、これもダークな兎画😬。
🐇ブラジルの女性画家。アナ・マリア・パチェーコ【Ana Maria Pacheco】。が描いたファンタジックなウサギ。
🐇Aurelija Kairyte-Smolianskieneはリトアニアのアーティスト。
🐇ポップ・シュルレアリスムのアーティスト、ロビィ・デュウィ・アントノ【Roby Dwi Antono】の悪夢のようなイマージュで描かれながらも、でも「POP」な兎画。
🐇ノルウェーのアーティスト、Katrine Kallekevが描いた「Angelic Rabbit」
🐇イタリアに接する小国サンマリノ出身のニコレッタ・チェッコリ【Nicoletta Ceccoli】もポップ・シュルレアリスムを代表するアーティスト。
🐇小暮千尋【Chihiro Kogure】「不思議の国のアリス」の世界に導かれたアーティスト。
🐇これってウサギなのかなぁ。とても刺激的な作品を発信続けてくれているリサ・メメット【Risa Mehmet】は日本のアーティスト。彼女の作品にはさまざまなウサギが登場するけど、みんな可愛い。
🐇ステファン・マッケイ【Stephen Mackay】が描いたシュルリアリテなウサギ画。
 🐇清水真理【Mari Shimizu】「月の兎」な球体関節人形。
🐇ドイツの女性アーティスト、Nadezhda Sokolovaによる「哲学するウサギ」
🐇骨格と筋肉が誇張された、肉感的で、あまりに肉感的な…。アメリカの女性彫刻家、ベス・ケイヴナー【Beth Cavener】の立体ウサギ。
🐇セルジオ・モナ【Sergio Mora】が描いた、「格闘家のウサギのおっさんのお臍から出てきたエクトプラズムと闘ってますよ」之図。
 🐇これってウサギなのかなぁ。ある意味、いろんなことを考えさせられる、或いは逆に考えることをストップさせられるフレッド・ストーンハウス【Fred Stonehouse】の作品。
 いつもながらの自画自賛だけど。なかなか充実した「兎アート・コレクション」になったんじゃないかなと思っているうーん
 
 
本日の『Bar Adieu Romantique』では、高橋幸宏の曲と高橋幸宏に何らかの形で関係する曲だけを時間軸ではなく、一応、架空の音楽バーの店主として、僕なりに流れを考慮した上で選曲し、氏を追悼させていただくことにする。
 
それでは。呑みながら(架空のバーなので呑まなくても全然、構わないけどね)、音楽に耳を傾けながら、高橋幸宏を想い、回想し、反芻しながら、ノスタルジーにひたって、暫しロマンティークな時間を過ごしていただければと思う。
 
音譜最初の曲は。ピエール・バルー【Pierre Barouh】の1982年のアルバム『花粉~ル・ポレン』【Le Pollen】(アルバムの写真は篠山紀信が撮影)から高橋幸宏が作曲したタイトル曲を。
 
「今日 僕は僕」【Today , I Am Who I Am】「僕たちは僕たち」【We Are Who We Are】「すべては僕たちを培ってくれた花粉」という詩の言葉に導かれて。バルーと高橋幸宏、そしてたまたま日本に来ていたJAPANデヴィッド・シルヴィアンが参加して、カフェのテーブルを囲み、自分たちを培ってくれたアーティストたちの名前をオマージュを込めて綴っていく。
 
ジャック・プレヴェールアルレッティギュスターヴ・モロータマラ(ド・レンピッカ)藤田嗣治ルキノ・ヴィスコンティエリック・サティマレーヴィッチ中原中也ジャン・コクトー…。そして僕も。僕なりのロマンティークを込めて。この曲の中に高橋幸宏の名前を加えて、小さく囁いておきたいと思う。
 

 
音譜高橋幸宏も大好きな映画だったと思うなうーんクロード・ルルーシュが1966年に撮ったフランス映画『男と女』【Un Homme et Une Femme】。その中で流れた、とても穏やかでロマンティークなピエール・バルーの曲『サンバ・サラヴァ~夢のサンバ』【Samba Saravah】(オリジナルはブラジルのバーデン・パウエルとヴィニシアス・ジ・モラエスの曲『Samba da Bênção』)。ジョアン・ジルベルトカルロス・リラドリヴァル・カイミアントニオ・カルロス・ジョビンヴィニシアス・ジ・モラエスバーデン・パウエルピシンギーニャカルトーラシロ・モンテイロノエル・ローザエドゥ・ロボなど、ブラジル音楽家たちの名前が尊敬と愛を込めて綴られていく。

 
音譜「サラヴァ!」という言葉をタイトルにした、1978年のソロ・アルバムから。そのタイトル曲を。今、世界中で人気があるCITY POPの流れで語られることもある名曲。
 

 
音譜1984年に大林宣彦が撮った映画であり、高橋幸宏が主演し音楽も担当した『四月の魚~Poisson D'avril』のサウンド・トラック・アルバムからピエール・バルーと共作した、そのテーマ曲を。因みに役者としての高橋幸宏は、YMOの他のメンバー、細野晴臣(高嶺剛『パラダイスビュー』(1985))、坂本龍一(大島渚『戦場のメリー・クリスマス』(1983)ベルナルド・ベルトルッチ『ラスト・エンペラー』(1987))と同じく、観ている僕の方が恥ずかしくなるせいか、ちゃんと評価することができなくなってしまうんだ。
 

 
音譜加藤和彦が率いたサディスティック・ミカ・バンドの1974年の名盤『黒船』(プロデュースは数多くのロック・アルバムに関わってきたクリス・トーマス)からバンドの代表曲『タイムマシンにおねがい』を。加藤和彦(vo、g)と加藤ミカ(vo)を中心にしたバンド・メンバーは高中正義(g)、小原礼(b)、今井裕(key)、そして高橋幸宏(ds)。
 

 
音譜モダニズムなカヴァー・アートがカッコいい、1981年のソロ・アルバム『音楽殺人』【Murdered By the Music】から、クリス・モスデル作詞、高橋幸宏と鮎川誠の共作となるタイトル曲を。
 

 
音譜1986年に元JAPANスティーヴ・ジャンセンとコラボレートした12inchシングル曲『Stay Close』。二人の歌い方が似ていて、まるで歳が離れた兄弟のよう。カヴァーの写真は日本を代表する偉大なる映画作家、小津安二郎の作品世界をリスペクトして伊島薫が撮った。
 

 
YMO【Yellow Magic Orchestra】時代の曲をいくつか。
 
音譜1978年のデビュー・アルバムから『中国女』【La Femme Chinoise】。タイトルはもちろんジャン=リュック・ゴダールの映画からの引用。因みに作詞はクリス・モスデル、作曲は高橋幸宏。
 

 
音譜ワールド・ツアーで疲弊し、メンバー間の関係性もあまりうまくいっていなかった時期に制作されたにも関わらず、YMOの代表作であり、ニヒリスティックでアノニマスな傑作でもあるアルバム『BGM』から『U.T』を。「この曲の高橋さんのドラム、凄いですね」。「ええ、凄いです」とさらりと言ってのけるカッコいい曲。アート・ディレクションはYMOには欠かせない奥村靫正。因みにこのアルバムは後のハウス・ミュージックやハウス以降のテクノ、エレクトロニカなどの音楽に大きな影響を与えている。
 

 
音譜同じく1981年のアルバム『テクノデリック』から、僕の中ではビートルズっぽい曲だと思っている『Pure Jam』。アルバム・カヴァーはその初回プレス盤(タイトルは確か『いわゆるテクノデリック』だったような気がする)。このアート・ディレクションもやっぱり奥村靫正だった。
 

 
音譜ムーンライダーズ鈴木慶一とのユニット、ビートニクス【The Beatniks】の1981年のアルバム『Exitentialism~出口主義』から『La Sang Du Poeta』。タイトルはフランスの偉大なる詩人、ジャン・コクトーの映画『詩人の血』からの引用。
 

 
音譜細野晴臣とのエレクトロニカ・ユニット、スケッチ・ショウの2003年にリリースされたサード・アルバム『LoopHole』から『MARS』を。ウサギたちのように。グリッチ音が空間を跳ね回っている。
 

 
音譜2014年に開催され、細野さん電気グルーヴくるりceroきゃりーぱみゅぱみゅPUFFYらが出演したロック・フェス『WORLD HAPPINESS 2014』。フェス自体のキュレーションを継続的に務めていた高橋幸宏が率いた1日限りのバンドとして出場した後、パーマネントなバンド、メタ・ファイヴ【METAFIVE】(当初は「高橋幸宏とクールファイブ」という名前を考えていたらしい。そういうセンスが好きだなぁ)として活動することになった。メンバーは高橋幸宏以下、小山田圭吾コーネリアス)、砂原良徳(元電グルまりん。彼は自他共に認めるYMOマニアでもある)、テイ・トウワゴンドウトモヒコLEO今井というスーパーグループで、このバンドが高橋幸宏にとって事実上、最後の活動の場となった。曲は2016年のデビュー・アルバム『META』からキレッキレッのデジタル・ファンク『Don't Move』を。LEO今井のパフォーマンスがとにかくカッコいい。
 

音譜高橋幸宏のキャリア最後の、アルバムとなったメタ・ファイヴの2022年のアルバム『METAATEM』から『環境と心理』
 

 
音譜2004年頃に。細野さんと高橋幸宏のユニット、スケッチ・ショウ坂本龍一が加わり事実上、1993年以来のYMOの再々結成となった。その実体も微妙で、バンドと言うよりもLiveを中心にしたゆる~い活動の場であり、サポート・メンバーには高野寛(vo、g)、エレクトロニカの人気アーティスト、クリスチャン・フェネス(コンピュータプログラミング)、高田蓮(ペダル・スティール)らが名を連ねている。そのバンド名はもともとヒューマン・オーディオ・スポンジ【Human Audio sponge】(略してHAS)だったところにYMOをプラスしてHASYMOに。そういった「適当さ」も彼らのひとつの魅力だと思うんだな。曲は2008年にリリースされたシングル曲『The City Of Light』を。

 
音譜再び、アルバム『BGM』から。YMO時代の代表曲のひとつ『CUE』を当時のPVで。

 
音譜個人的にとても思い入れが深い、1983年のソロ・アルバム『What Me Worry? ボク、大丈夫!!』からの曲『Sayonara』で、明るいサヨナラをしよう。

 

 
悲しいという感情ではなく、ロマンティークに明るいサヨナラをしたつもりなのに。(考えたくないけど、坂本龍一のことも心配だし)何だか涙が出てきたよ
 
本日の『Bar Adieu Romantique』はこれで閉店。

 

じゃぁ、また。

アデュー・ロマンティークニコ