寺澤志摩守広高の客分に、堀江宗信と言う者がいたのだが、
この人は泉州堺の生まれで、上方の侍に知り合いが多かった。
ある時、この堀江が寺澤に、大和の何某と言う侍が、
関が原において、見事な討ち死にをした顛末を語った。
この大和の侍、何某と言う者、自分が銭をどれほど所持しているかも、
米がどれだけあるかも知らないという男で、
「真の武士と言うべき男でござった。」
と、堀江が言うと、これに寺澤、
「そのような者を、真の武士と言うべきではない。
世をうかうかと過ごす、益体無しと呼ぶべきである。
そのような者は、十年も世が治まれば飢えと寒さに苦しめられ、
武具ももてないほど、落ちぶれるに決まっている。
当節、人への観察眼や自分の家の経営のことも知らないような者を、
よき侍だ、などと言うことが流行っている。
そう言う人間が運よく戦に当たり、
討ち死を遂げられれば幸せ者だと言っていいが、
そんなもの、めくら打ちをして、たまたま当たっただけの話だ。」
そう、批評した。
戦う事しか考えられぬ様な者が武士なのではない。
いざと言う時の為にも、
自分の家をきちんと経営出来る者こそ、真の武士なのだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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