鍋島家家臣・成富茂安は、慢性的な水不足を解消するため、
背振山地(現在の福岡県と佐賀県の境にある山地)の蛤岳から水路を引いた。
これにより鍋島側の水不足は解消されたが、
当然、福岡側は流れ込む水量が減り、とうとう日照りにより水不足となった。
困り果てた福岡の村人達は、蛤水道を破壊しようと決意した。
実行役として白羽の矢が立ったのは、夫を亡くし、
乳呑み児を抱えていた「お万」という婦人であった。
お万は村の窮状を救うため、
「必ず蛤水道を壊します!」
と村人達に約束し、わが子と共に決死の覚悟で鍋島の地に潜入した。
だが、戦国の世に乳呑み児を抱いた婦人が易々と他家の地で動けるはずもなく、
お万は蛤水道の目前で役人に見つかってしまう。
「もはやこの子は守りきれない。他人に殺されるくらいなら…。」
お万は近くの滝のほとりに立つと、わが子を泣く泣く滝壺に落とし、
非情の執念で蛤水道に向かった。
だが、ついに役人に捕まり、
お万は役目を果たせず無念の死を遂げた。
知らせを聞いた茂安は心を痛め、後に福岡の村にも水が行くように、
蛤水道に「野越し」と呼ばれる改修を施した。
お万の子が沈んだ滝は、
「稚児落しの滝」
と呼ばれる様になり、
お万とその子は懇ろに弔われた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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