最後の挨拶☆ | げむおた街道をゆく

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元和元年五月二日、後藤基次は、大和口の大将としてまさに出立する時、

『今度は生きて再び帰ることが無いであろうから、秀頼公に最後のお暇を申し上げよう。』

と、御広間へ向かい、
速水出来丸を通して斯くと言上すると、秀頼も早速に出御し、
「早や、出陣か。」
と声をかけた。

基次は謹んで畏まり、
「私は不肖の身ではありますが、去年召し出して頂き、直ぐに諸大夫に仰せ付けられ、

殊に大将の号を許された事、弓矢の面目死後の思い出、何事がこれに勝るでしょうか。
であるのに私は、尺寸もこの御恩に対して報いておらず、

この事、返す返すも口惜しく思っていました。

この基次、今度は一番に東兵に相当たり、千変万化に戦って、

これぞと思う敵と引き組み討ち死にし、
せめてもの忠を泉下に報い奉ろうと決心しています。

然らば、今生において御尊顔を拝するのもこれが限りであり、一層名残惜しく存じます。」

さしもの猛き基次も、この時はしきりに涙を拭っていた。

 

秀頼もまた涙を流しながら、
「汝の忠貞は感ずるに余りある。

私も宿運拙く、いまやこの体になってしまい、一日も安堵の思いなく、遺恨余りある。

しかしこれも、前世からの宿業なのであろう。

汝と真田を私は、我が両翼と思っている。

例え討ち死にの覚悟であったとしても必ず、
再びこの城に帰って、私と死を共にするのだ。

この事、必ず忘れてはならぬぞ。」

基次はこの上意の有り難さに感涙を流していたが、率然と叫んだ。
「天晴! 名君の仰せであるかな!

今生の望みもこれにて満たされました。

上意の趣、畏まり奉ります。」

そう言って御前に在った傍輩たちにも皆、暇乞いをして広間を立った。
そして襖障子に一種の歌を書き付けた。

『主命ぞ 親子も捨つる武士の道 辞ひとつの命もろとも』

これを見る者は皆、感動し、世の口碑に刻まれたのである。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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→ 大坂城五人衆の一、後藤又兵衛

 

 

 

ごきげんよう!