大坂夏の陣直前、後藤基次と大野治長の間で口論となり、一触即発という事態が起きた。
その後、基次は真田の陣屋に行き、
「今陣中にて、かくかくの口論が有った。」
と伝えた。
真田は、これを聞くと、
「そういう事は人を選ぶべきだ。それを蒼蠅に向かって、後藤殿は大人げない。
蒼蠅という虫は、いかなる貴人高官の首にも上がるが、
素より蝿虫だと思っていれば気にならぬ。
だからこそ昔の君子も、悪人を蒼蠅に例えたのだ。
近頃私は、あやつを蒼蠅だと思っているので、奴の行動に対して無念と思わなくなった。
後藤殿は生まれつき堪えられない性分であるから、闘論にも及んだのだろう。
今後はそのようにお心得あるといい。」
これに基次も笑い出し、
「仰せ至極である。
ただ、戦の出鼻をくじくような言動に腹が立って、
若輩のようなことを言ってしまったのだ。
しかし、我々が討ち死にするのも間近なのだから、蝿に出会う機会ももはや稀であろう。
ああそれにしても、あの蝿を払う唐国団扇があれば、
千金を以ってしても求めるのになあ。」
「なあに、おっつけ落城の時は、どんな蒼蠅も駿河団扇によって払われるだろう。」
二人は大いに笑い、基次は宿所へと帰っていった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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