細川家から上方に上る事となった後藤又兵衛。
彼は忠興への暇乞いのため、数寄屋にて茶を立て忠興に振舞った。
この時、細川家重臣たる有吉頼母、松井佐渡もご相伴をした。
茶を飲み終わると、忠興は又兵衛の方を向いて、
「我々が黒田長政と仲を悪くして数年になるが、
今回そなたの事でさらに遺恨深い関係になってしまった以上、
仮に世が乱れれば長政とは必ず一戦をすることとなるだろう。
その方はつい先日まで黒田の家人であったのだから、
長政家中の利害得失、皆知っているであろう。
我々が長政と戦って勝つべき方法があれば、是非教えていただきたい。」
又兵衛、これを聞くと、
「その事であれば、例えお尋ねがなくても私の方で申し上げようと考えていました。
まず、細川のお家と黒田家が合戦した場合を考えるに、
互いに加勢が無く正面からぶつかる形の御一戦ならば、
これはどうしても細川家が負けるでしょう。
その理由は、細川家のほうが黒田家に比べて御小身であるからです。
長政は大国を領しており、身上が違う以上、
どうしても大勢と少勢では、大勢のほうが勝つからです。
そうではありますが、長政を討ち取る手立てはあります。
実に簡単なことです。
ここに松井殿、有吉殿もいらっしゃる。
これを良く聞いておいていただきたい。
明日にも長政と一戦する、という状況になれば、何の謀り事も要りません。
鉄砲隊50挺に申し付け、構わずに敵の先頭をやってくる槍前槍脇をとにかく御撃ちなさい。
五人も撃ち倒せば、真っ先では無いかも知れませんが、
二人目か三人目には、長政を討ち留める事でしょう。
黒田長政という人は天性剛強な生まれつきで、
どんな合戦でも先手に出、物脇の二人目か三人目にあって、
諸士と先を争う将であるので、この先陣争いの連中を御討ちなされば、
そのまま安々と黒田長政を御討ちになれる、と言うことなのです。」
そう申し上げると退出した。
後で、細川忠興を初め細川家の諸人、
『後藤又兵衛は黒田長政に多くの不満があって黒田家を立ち退いたというのに、
古主を悪く言うように見えて、実は古主の武威を語っていた。
忠義の厚い、見事な侍である。』
と、彼を大いに褒め讃えたとのことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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