黒田長政の養弟・一成は、戦場の働きのみならず、性質は実直で常に柔和な人だった。
事に臨んで心は動じず智恵も厚いので、如水父子は第一の相談相手とした。
豊前拝領後は、十二万石のうち一万二千石を与えられたが、
少しも奢らず礼儀に厚く、
下々に近い人だった。
登城の時には、長政の座と敷居を隔てて着座するので、
他の老臣たちはさらに末座に座らざるを得ず、長政が、
「三左衛門殿、是へ。」
と、言ってようやく同座に着座するほどだった。
ある時、長政と一成が出くわすと、
一成は馬より急いで飛び下りて頭を地に付けた。
長政が早々に駕籠から下りて傍へ寄り、
「そのようにされては困るので御通りあれ。」
と、言ってもなお、一成は頭を下げ続けた。
その後、館にて人のいない時、密かに一成が長政に向かって、
「この間の路次での御挨拶ですが、御了見違いをなされています。
単に御前を恐れただけではなく、あなたが御年若のために御家中の諸士が、
もしやあなたを軽視することもあるのではと思い、私が尊敬の礼を見せれば、
『あの人さえあの如く敬っている。』
と、諸士も配慮するだろうと考えてのことです。
ですから、これからは途中で御出逢いの時でも、
大礼に御言葉をかけられて御通り下さい。」
と、言ったところ、長政は深く感涙に及んだのだとか。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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