加藤清正の中備の吉村又市が、釜山海で敵と戦い、戦闘は日暮れにまで及んだ。
清正は、
「そろそろ兵を退かせなければ危険だ。誰に頼もうか…。」
と考えて辺りを見回し、
遠く離れた所に居た庄林隼人を呼んで、兵を退かせるよう命じた。
隼人は早速采配をとって馬を交戦中の両軍の間に乗り入れ、無事兵をまとめ引き揚げてきた。
さてこれで良し…と思った清正がふと隣に視線をやると・・・。
直ぐ側に控えていた森本儀太夫が泣いていた。
しかも何やら怒っているようにも見える。
驚いた清正が泣いている理由を尋ねると、儀太夫はこう答えた。
「隼人と俺は同じように殿に従ってずっと一緒に戦ってきたから、
俺が決して隼人に劣らない事は、
殿もずっと見てきて知っている筈と思ってたんだけど、
俺が側に居なくて隼人だけが殿の側に居たんだったらどうも思わないんだけど、
すぐ隣に居る俺に兵の撤収を命じずに、
わざわざ遠くに居る隼人を呼んで命令するなんて、
殿は俺より隼人の方が優れてる、役に立つと思ってるのですか。」
清正は泣き続ける儀太夫に笑いかけ、以下のように言って宥めた。
「そんなことは無い。
二人共、同じように俺の手足みたいに大事な家来だ。
ただ仕事をしてもらう時は、性格や能力に合わせた仕事を頼むようにしてるのさ。
もしお前に兵の撤収を頼んだら、お前は勇敢な気性だからきっと一戦交えてくるでしょ。
でもそうしたらかえって兵に損害が出ちゃうだろ。
隼人は敵に取り合わずに、さっさと引き揚げてくるだろうから彼にお願いしたのさ。
もし強い敵や堅固な陣地を攻める時が有れば、その時は必ずお前にお願いするよ。
お前に頼めば倍以上の敵だって怖くないからな。
そういう強い敵を打ち破ることにかけては、お前に及ぶものは居ない。
儀太夫の良い所ってそこなんだ。」
「殿がそう言ってくれるなら面目が立つような気がします。」
これを聞いて儀太夫は泣き止み、機嫌を直した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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