蜂須賀蓬庵(家政)の代に、土佐の国で土佐紙を漉くという弥右衛門が、
土佐の国を立ち去って阿波の国へ来た。
諸役人はこのことを聞き及んだ。
「重宝な者が来たものだ。
阿波でも紙を漉かせて商売させたら、ここもにぎやかになって太守の為にも良いだろう。」
以上の次第を奉行人に訴えて居所等もしつらえて、
「今にも土佐紙などを漉かせよう。」
と言い合った。
この事を蓬庵へ申し上げると、
「この国へ来た者を養育するのはもっともである。
しかし紙を漉かせる事は堅く無用である。
理由は古くから土佐紙として土佐の国で漉いていた物を、
ここへ奪い取り、ただ自分の利のために養育するのも不本意である。
だからといって、彼に居心地が悪い思いをさせるのはいかがなことか。
ずいぶんと労ってやれ。
ただ紙を漉かせる事はいらざることである。」
と制止されたという。
ありがたい心ばえで、利を見て義を思うことは殊勝であった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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