大坂の役を目前とした時期、水野勝成は出陣の景気付けに、
家臣たちと酒宴の席を設けた。
宴も盛り上がって来た頃、勝成は杯を皆の前に掲げ、上機嫌で言った。
勝成、「おい! この合戦で『我こそは大将首を上げてやる!』という者は前に出よ!
前祝にこの杯をとらしてつかわす!」
家臣一同、「・・・・・。」
勝成、「・・・・・・おい、誰かおらんのか?」
家臣一同、「・・・・・・」
勝成、「・・・・・・おい、誰もおらんのか!?」
気まずい空気が流れた。
いくら酒の席のことであっても、主君と家臣一同の前での首取り宣言。
果たせなければ、単なるお調子者。家中の笑いものになることは明白である。
たかが酒宴の座興にしては、武士としてあまりにもリスクが大きすぎた。
が、誰も名乗りでなければ、それはそれで勝成に恥をかかせることになる。
『く、空気が重い・・・。』
『だ、誰か名乗り出てくれ・・・。』
『ちょ、と、殿がキレかけてるぞ?』
『早く、早く誰か・・・。』
その時、河村新八郎という若者が進み出て、首取り宣言。
勝成から杯を受け取り、呑み干したのである。
勝成の機嫌も直り、一同はホッとしたものの、今度は新八郎のことが心配になった。
「お前、なんであんなムチャな宣言したんだよ? 出来なかったらどうするんだ。」
「だって、誰かが名乗り出ないと殿のお立場が無かったでしょう?
まあ、大将首が取れなければ切腹すれば済むことですよ。」
そして大坂の役。
河村新八郎は大阪方の豪傑 薄田兼相と一騎打ち。
見事その首をあげ、家中のみならず天下にその名を知らしめたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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