関が原の戦いの後、芸・備四十九万八千石の大大名となった福島正則は、
家中随一の武辺者・可児才蔵吉長に、
二千石の知行を与えて普請役を命じた。
が、才蔵は、
「自分は槍で禄を取ってるんで、スキやクワで禄を取る気はありません。
普請役が無ければ、少禄でも結構。」
と言い放った。
仕方なく正則は、才蔵の知行を元のまま千石に留め置き、
代わりに広島城本丸御門の番を命じた。
しかし、齢五十を超える才蔵は体力的にキツいのか、不寝番の際の明け方には、
例の先だけはキラリと光る槍を石垣に立てかけると袴を脱ぎ捨て、
横になっていたという。
そんなある日、正則の側小姓が、今日も今日とて寝転がる才蔵のもとに、ウズラを持って来た。
「可児どの、これは殿が鷹狩りで獲ったものです。『才蔵に与えよ』との御意により、
お持ちしました。
どうぞ、お受けくだされ。」
小姓の口上を聞いた才蔵は、すぐに跳ね起き、あわてて袴を履き直すと、
天守に向かって正座して、
「殿。御礼の儀は、直ちに伺って申し上げまする。」
と言って、ウズラを押し頂いた。
立ち上がった才蔵は、憤怒の形相を小姓に向けた。
「おのれ、若輩なればとて、何たるうつけ者か!
殿の御意ならば、なぜ最初にそれをオレに言わぬ!
よくもこの才蔵に、殿の御意を寝ながら聞かせおったな!
ガキで無ければ、タダでは置かぬところじゃ!」
肝を潰して逃げ帰った小姓は、この件を同輩に話したが、やがて一件は正則の耳にも達し、
呼び出された小姓は、
才蔵に怒られた顛末を正則に打ち明けた。
「才蔵が正しい。それはお前の不調法というものだ。
芸・備両州の侍ども、残らず才蔵のごとくありたいものよ。
さすれば、わしに怖いものなどあるまいに。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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