姫路藩主・池田輝政は、いつも竹製の水筒を愛用していた。
たとえ職人が精魂を込めても、物は竹である。
数ヶ月で水筒は割れ、その度に輝政は竹職人に命じて、水筒を作らせていた。
ある時、世間では銅製の水筒が流行り始めた。
竹製の物より丈夫で長持ちすると評判になり、皆こぞって銅製の水筒を買い求めた。
輝政の家臣もこの事を聞きつけ、輝政に進言した。
「殿、いま世間では銅で出来た水筒が流行っている様です。
殿の水筒も、銅の水筒に取り替えましょう。
竹より長持ちしますぞ。」
だが輝政は首を振った。
「確かに銅の水筒は長持ちし、便利かもしれん。
だが藩主の私が銅の水筒を使い始めれば、竹職人は水筒が売れず、路頭に迷うぞ。
藩主が軽はずみに流行に乗っては、思わぬ所で民を苦しめる事もあるのだぞ。
それに私は、職人が精魂を込めた竹の水筒が気に入っているのだ。
以後そのような気遣いはしなくて良いぞ。」
進言した家臣は己の短慮に恥じ入り、輝政の配慮に深く感動した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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