伊木清兵衛(忠次)は、池田三左衛門尉(輝政)の家老である。
清兵衛は病気で死に際の時に、
「今生の望みに、今一度公の御目にかかりたい。」
と言った。
三左衛門尉は急いでやって来て、
「どうしたのだ清兵衛。
近頃そのような望みがあるとは知らなかった。
申しておきたい事があるならば申すがよい。」
と言った。
清兵衛は頭を上げて手を合わせ、
「これまでの入御有難く存じ奉ります。
ただ一言申したき事がございますので、これを申し上げます。
君はいつも掘り出しを御好みになられ、ひたすら士の掘り出しを、
第一とお思いになられています。
これはよからぬ御癖です。
士はその身の程よりも一際相応に仰せ付けられてこそ、
永く御家を立ち去らずに忠勤を致すものです。
この事を申すために御目にかかりたかったのです。」
と言った。
これに三左衛門尉は、
「今の諫言はもっともだ。
その志は山よりも高く、海よりも深い。
わしは決して忘れない。」
と、清兵衛の手を取り、涙を流して別れた。
それより池田家の家風は、よくなったということである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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