池田恒興の家臣に、森寺政右衛門忠勝という男がいた。
恒興の守役と言うべき藤左衛門秀勝の子であり、
若いころから恒興に仕え、伊木清兵衛忠次と、ともに恒興の両腕たる男であったが、
「常山紀談」に『優れたる荒者』と書かれるように武勇に優れ、
そして荒々しい男だった。
ある日、恒興が政右衛門に徳利を見せた。
「どうじゃ! 備前焼の逸品だとか。稲葉一鉄にもらった物だ。」
徳利を見た政右衛門、一言。
「ニセモノですな。」
「何だと!?」
「今ごろ一鉄殿は、さぞかし笑っておりましょう。
にっくき奴輩ですな。
この徳利を一鉄殿の目の前で割ってやったら、さぞかし痛快でしょうな。」
「そりゃそうだが、さすがに無礼だろ。
というか、あの一鉄の前でそんな事、やれるモンならやってみろ。」
恒興の言葉を聞くが早いか、政右衛門は徳利を抱えて飛び出した。
「…いかん! アイツの気性では、本当にやりかねん!」
ようやく気づいた恒興だったが、時すでに遅し。
屋敷の門前まで出てハラハラしながら待っていると、
政右衛門が五体満足で駆け戻って来た。
「せ、政右衛門! お前、無事だったか!」
「おう、殿! これを御覧あれ!」
政右衛門は懐から、首だけになった徳利を差し出した。
「やりやがった!」
「使者と申して一鉄殿に対面し、縁側の柱に徳利を叩きつけて、
木っ端微塵にしてやりましたわい。
『そやつを捕らえろ!』
と叫んだ一鉄殿の顔、殿にも見せてやりとうござるな。
まあ、縁側に出ていたおかげで、こうして逃げ延びて参りました。」
「な、何という事を…。」
「殿が悪うござる。
およそ人の主たる者、一言たりとも慎みあるべし。
わしの発言は確かに無礼でしたが、それを、
『やれるものなら、やってみろ。』
などと侍が言われれば、
『たとえ骨を刻まれようと、やらいでか!』
と、なります。
今回、帰って来れたのも運が良かっただけ。以後、ご自重あれ。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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