尼子経久は、領内各地で多くの勇士や腕が立つ者を募集していた。
募集に応じて多くの者が集まり、皆腕を競い合った。
その中に松吉、周りからは鬼吉と呼ばれる大男がいた。
松吉は身分の低い百姓の出であったが、六尺五寸ほどの巨躯の持ち主で、
鬼のように恐ろしげな容貌を持ち、素手で木を引き抜き、
槍を同時に五本振り回し、矢を十本同時にへし折るほどの怪力の持ち主だった。
だが、その豪勇の割に無口で大人しい男であり、
何を聞いてもまともに受け答えが出来なかったため、皆からは馬鹿にされていた。
経久は、この大男をとても気に入り、武士に取り立てようとした。
だが松吉は幼い盲目の妹がいることを理由に断ったため、
経久は松吉に心ばかりと米俵を与えすんなりと帰させた。
部下にはそれを咎める者もいたが、経久は、よいよいと言い、小気味よさげに見送った。
何年か後、経久は松吉のことが気になって部下に調べさせたが、
既に亡くなったという非常に残念な報告が届いた。
松吉が住んでいた周辺は完全に経久の勢力圏で戦もなかったため、
どうしてあの豪勇の士が死んだのか、
経久は疑問に思い部下に松吉のことを再度調査をさせた。
すると、松吉はその性格ゆえか村人達に非道な虐めにあって、
殺されたばかりかその亡骸は辱められ、
盲目の妹は慰み者にされたあげくに殺されたとの惨たらしい報告が届いた。
豪勇の士を遇することを知らぬ者達のあまりの仕打ちに烈火の如く怒った経久は、
即座に虐めの首謀者らを捕らえ打ち首にし、
その首を松吉の墓前に供えて霊を丁重に弔ったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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