大内義隆の家臣に、宮部久馬介、浅茅鹿馬介という、二人の小姓があった。
義隆は、この二人を別して大切にしていたのだが、
ある時、とある女中からの中傷により、
この鹿馬介を討つようにと、義隆より宮部久馬介に命ぜられた。
宮部は承って、自分の宿舎に帰り考えた。
「それにしても、なんと黙し難い仰せを被るものだろうか。
私は鹿馬介と一緒に奉公仕り、片時も放れたことはなかった。
本当に入魂浅からぬ関係であるのに、
彼に、こんな事を一言も知らせずして空しく討ち果ててしまえば、
草葉の陰で、自分たちの契りはこんなものではなかったはずだと、
どれほど恨むだろうか。
彼に知らせるなら、我も諸共に死ななくては面白くない。
どうせここで死ぬのも主のためなのだから、悪いことではない。」
そう思い定めると、浅茅の部屋へ行き、彼に言った。
「私は大変情けなき仰せを被ってここに来た。
義隆公より、それがしにあなたを討って来い、との仰せを受けたのだ。
しかし日頃から、親しくしていること他に異なる程の仲であるのに、
一言もあなたに知らせず、空しく討ち果たしては、
冥土にて私は必ず恨まれるでしょう。
その上、あなたを討った私のことを、朋輩たちがどのように思うか、如何とも辨え難い。
こうなれば、あなたと刺し違えて、死出の旅路に赴こうと思う。」
浅茅はこれを聞くと、
「さてもさても、日頃から互いをなおざりにしない関係であったのが、
今ここに現れたのであろう。
あなたの心底は長く後の世までも忘れてはならない。
そして、かの女中の中傷に対して、真実を主君に申し開きをして死のう、と思ったが、
女を相手に論じても意味があるだろうか。
私は自害をしようと思う。
なのであなたには、介錯を頼む。」
宮部は、そのように言われて、笑い出して言った。
「私の胸中を定めないまま、どうしてこの事をあなたに知らせるでしょうか?
仏神三宝も御照覧あれ!
私はあなたとともに、相果てなければならない!」
浅茅、このように言われ、
「それならば仕方がない。であれば…。」
と、二人共に思い思いに、
その意趣を細々と書き置きし、川の中瀬に行き、二人はしっかりと体を組んで、
川の中に飛び込み立つ白波と消えた。
彼らの死を人々はみな、なんと殊勝な義死を遂げたものかと、
褒めぬ者は居なかった。
義隆は彼らの書き置きを見て後悔したが、もはや取り返しのつくことではなかった。
彼は中傷をしていた女を召し出すと、
「あの者たちの追善にせよ。」
と、彼らが入水した中瀬にて、
柴漬け(ふしつけ:簀巻きにして水中に投げ入れること)にして、
水の中に投げ捨てたと言われている。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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