千利休が、職人に茶入の蓋を作らせたが、
出来たものはヒビの入ったような疵ものに、
仕上がってしまった。
職人は急いで作り直そうとしたが、利休はそれを止めた。
「いや、これはこれで面白い。このままで良い。」
ある日、利休は古田織部を招いて茶会を開いたが、
その時に例の疵ものの蓋の茶入を使い、疵の上に茶杓を置いて隠し、点前を進めた。
茶会が終わると織部は利休に申し出て、その茶入をもらい受けた。
何日かのち、今度は織部から利休に茶会の誘いが来た。
利休が茶室に入ると、織部は例の茶入を使い、
しかも疵の部分を客である利休に向け、
茶杓で隠そうともしなかった。
つまり、利休は蓋の疵の風情を面白いと思いつつも卑下して隠したが、
織部はその疵をも客に見て楽しんでもらおうと、あえて見せるように置いたのだ。
「さても良く思いつかれた。古田様ほどの茶人は、またとおられますまい。」
と、利休は弟子の茶人としての境地を認めたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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