家康が、将軍職を辞して駿府へ隠退していた頃のお話。
この時、家康は彦坂九兵衛なる者を駿府の町奉行に任命しようとした。
ところが九兵衛は、とても自分には出来る仕事では無いと、これを断ろうとする。
なので家康は、近日中に伊賀守(板倉勝重)が来るから、
一度相談して考えてみろと九兵衛に言った。
やがて勝重が駿府へやってきたので、九兵衛は勝重の元を訪れ意見を聞いた。
勝重は、九兵衛に役人たる者が守るべき事を説いてやった。
「役人が守るべき事はただ一つしかない。
それは賄賂を受けない事、これだけだ。
お前が奉行となり、民に無実の罪が無いようにするならば、
まず自分の欲を無くすことが大事なのだ。
役人が無欲でさえあれば、民の言葉が嘘か誠かは火を見るように解るものだ。」
「この私も、以前ある者から百両もの金を送られたことがある。
無論私はそれを受け取りはしなかったが、
それでもその者の罪を隠してやろうと思ってしまった。
と九兵衛に打ち明けた。」
九兵衛は勝重の言葉に感服し、駿府町奉行を拝命して優れた治績を上げたという。
「奉行職で一番重要な事は、町人の賄賂を受け取らぬ事。」
これが勝重の口癖だった。
一方で町人達には、
「お前達よ。何か訴訟の際には、まず奉行に物を贈るが良いぞ。
そうすれば、たとえ奉行がその物を返してこようとも、
自然に贔屓してしまうからな。」
と語り大笑していた言う。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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