井伊直孝の嫡子の靱負佐直滋が、若年の時、父・直孝が言ったのは、
「其の方に附人を申し付けようと思うのだ。家士の中から選びなさい。」
ということだった。
嫡子直滋は答えて、
「私は嫡子ですから御跡を継ぐ身です。
そうであるのに、いま家士の中の誰彼と選んだので、
私が当主になった時に、いま選んで残した者どもが、
『自分たちは当主の気に入っていない身だ。』
と思ったならば、自然と勤方も怠ることでしょう。
家士は主将の四肢です。
四肢が怠る時には身は立ちませんので、私は選ぶつもりはありません。
父の御目鏡をもって、誰でも御附けになってください。」
と、言った。
直孝を初め、これを聞く者に感心しない者はいなかった。
ところが、直滋はどのような理由なのか、
その後に遁世なさった。
「彦根一家中で惜しまない者はいなかった。」
と、家中の老人は、嘆息しつつお話しになった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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