井伊直孝の邸宅に、人が集まり物語などしていた時、
彼らが、
「この頃、世に、”みつめの法”(呪いの一種らしい)という物があり、
人々が、これを習っている。」
という事を語りだし、
「刀も要らずに人を捕え殺すとは、稀有の重宝である。
人々がこれを習い行うのも余儀なき事だ。
私も習おう、人も習おう。」
などと言った。
しかし直孝は、これを聞いて、
「歴々たるあなた方に似合わぬ事を物語るものです。」
と、叱責した。
彼らは、
「これほど重宝なことなのに、どうしてそのように言うのか。」
と反論した所、
「まだ合点致しませんか?
人の剛操勇猛と言うものは、互いに剣戟を抜き持って勝負を争い、
勝ちたるを以てその志を定めるのです。
例えば同じ仕物放討であっても、縛めを抜き放った者を仕留めるのと、
抜きはなさぬ者を仕留めるのとでは、甲乙差別の有ることです。
であれば、広い場所で声をかけ、相手に武器を抜き放させて、
その上で心よく仕留めることこそ、
教えもし習いもして、これを以て武勇と致すべきなのです。
あなた方のような歴々の評定は、その様であってこそ然るべきであり、
”みつめの法” などと言うものは、
出家町人のような長袖で、そういった技を知らぬものが、言うべき事なのです。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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