九州征伐、日向根白坂の戦いの前、
宮部継潤をはじめ、この地に陣取っていた豊臣軍は、深刻な食糧難に陥っていた。
宮部の陣に程近くに陣取っていた黒田親子、
並びに尾藤知宣の陣では、兵糧が尽きて4日間も経ち、
食料といえば山に入って取ってくる山芋や筍、といったものしかなかった。
そんな時、大納言・豊臣秀長が、兵糧1万石を携えて日向の浦に入った。
日向に滞陣していた諸将はみな、
その兵糧を自分たちに分け与えてくれるものと考えていた。
所があにはからんや、秀長はこの兵糧を販売すると言い出したのだ。
しかもたいへんな高額で。
これには日向滞陣の豊臣軍全体が憤った。
しかし憤ったものの、秀長はこの方面の大将であり、
大名小名はみな、秀長のもとに挨拶に出た。
さて、毛利輝元が秀長のもとに挨拶に行った時のことである。
そこには先に2、3人の大名があり、秀長は輝元にこう声をかけた。
「今日は雨が降っております。
雨が止むまでこちらでゆっくりとよもやまの話でもして過ごしましょう。
食事も用意しますので、他のみなさんもどうぞごゆっくり。」
こう言われて、輝元を始めその場に居た大名たちもそれに従った。
ところで尾藤知宣も挨拶に来ていたのだが、一足先に帰ってしまっていた。
そこで秀長は使いを出し、帰る途中の尾藤を捕まえて戻ってくるように言った。
「皆様お残りになって秀長様よりご馳走をいただくそうです。
尾藤様もお戻りになって、皆様とご一緒してください。」
これに尾藤は激怒。使者に対し、
「わしは戻ったところで秀長様に支払う食事代の持ち合わせもない!
よってこのまま直に陣屋に帰らさせていただく!」
そう言い捨てて帰陣した。
これは兵糧米を売って利益を得ていた秀長への、強烈なあてつけの言葉であった。
「尾藤は秀長の兵糧米の売買がどうしても許せず、
そのようなことを言ってしまったのだろう。」
人々はそう囁きあったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!