籤で、持ち口を☆ | げむおた街道をゆく

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信長の野望、司馬遼太郎、大河ドラマが大好きです。なんちゃってガンダムヲタでもあります。どうぞよろしく。

 

大坂冬の陣が始まらんとしていた時の事である。
 

大坂城中では、関東勢(幕府軍)が軍勢を発進させた、との報を受け、

諸方の砦、そのほか外構え等の軍事施設の普請を急いでいた。

この時に豊臣秀頼は譜代新参の諸将を集めて評定を行ったが、そこで秀頼は、

「先に達って申し付けた各々の持ち口(担当場所)であるが、

その配置に善悪が有り不満が出ている。
よって改めて、籤(くじ)によって、持ち口を決め直す。」

と仰せになった。

 

これを聞いた各持ち口の頭分の者たちは、

「最前、既に仰せ出された持ち口であるのだから、

それに善悪があるといっても今になって又、変えるべきではない。

それに武士が籤を用いる時は、その故実に従うべきものであるので、
ともかくもそのままに差し置かれるべきだ。」

と思い、敢えてその沙汰に同調する雰囲気は無かった。

この時、大野治長と渡辺糺は籤奉行であり、両人は座の中央に居たのだが、

治長が進み出て申し上げることには、

「黒門口は平野口に近く、これも又大手の要害ですので、

かの口の30間は、私、治長が、これを固めます!」

渡辺糺は、これを聞くやいなや怒鳴った。

「治長のやり方は全く理解できない!

今、持ち口の善悪があるからと籤を用いようとしているのだ!
そんな所に黒門口は、治長自らがこれを固めると言い出す。
然らば、この籤は無いのと同じではないか!

そもそも修理亮はいつもそうだ!

何でも己のほしいままに行い、諸将を軽んずる。
甚だ奇怪なことである!

今後そのような態度は謹むべきだ!」

治長も、これに怒鳴り返した。

「黒門口は内側が広く、そのため小勢ではここを守るのは難しい。

それ故配下の多いこの私が、
籤を引く前にここを固めると申したので、これは全く我意を挟んだものではない!
だいたいそのように言う貴殿こそ、秀頼公の思し召しが良いのをいいことに、

諸士に対して無礼に振るまい、人々もこれを憎んでおるぞ!
この治長の事を言う前に、先ず自分の身を謹まれよ!」

糺は、これに激怒し、

「日々の事はともかく、黒門口の担当も籤で決めるべきで、

特別に治長に任せるような事は出来ない!

それでも強いて要求するのなら、余人には渡さぬ、この糺が自らここを請け負う事とする!
未だ言いたい事があるなら、申されよ!」

渡辺糺は、目を怒らし居丈高となり、肘を張って言葉を投げつけた。
これに治長も膝を立て、今にも斬りかかろうとしたのを、

座中の人々が慌てて両人の中にはいり、

「御両人は、この大坂城をまとめる老臣ではありませんか!

それがこのような論争をするのは、ただでさえ似合わぬことであり、

しかも今のような大事を控えた状況で、

朋輩同士の口論などしている場合ですか!
第一これは、君のためになりません!」

そう言って二人を制した。

ここでようやく渡辺糺が鎮まり、治長も、

「ついカッとして言い過ぎた。」
と謝罪し、各々その座に戻った。

しかしこの騒ぎのために、籤の件は沙汰止みとなったそうである。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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→ 淀殿に近侍、大野治長

 

 

 

ごきげんよう!