大坂夏の陣。
真田信繁、後藤又兵衛といった諸牢人も討ち死にし、大阪城もいよいよ落城間近となった。
豊臣秀頼は、家臣の今木源右衛門に命じ、切腹の準備をさせた。
そして、母公(淀殿)の前に立ち寄り、
「御一緒に、自害のため殿主に上がりましょう。」
そう進めて立ち上がり、殿主へ向かおうと立ち上がった所、
淀殿は秀頼の袖にすがって言った。
「今少し、心を落ち着けて聞きなさい。
源氏の頼朝は朽木の中に隠れ、死ぬべき場所で死なず、終に本意を遂げた例もある。
なのにどうしてそんなに慌ただしく、腹を召そうと急がれるのですか?」
秀頼は、これを聞いて、
「母上の仰ることは確かにその通りですが、私達の運命は既に極まりました。
命を永らえて我が世の衰えを見るよりは、
私と同じ道に急ぎ、後世を楽しまれるべきです。
百年の栄華も、一睡の夢と成り果てるのが習いなのですから。」
そういって強く淀殿を振り払い、殿主へと上がっていった。
淀殿はこれを見て、たいへんに嘆き悲しんだ。
その時までは、秀頼母子には未だ男女600人も付き従っていたのだが、
この有り様を見て、皆散り散りに逃げ落ちた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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