ある時の事、聚楽第の奥で大切に飼われていた猿が、
どういうことか檻を抜け出し、たまたま近くを通りかかった、
秀次の愛妾の一人を、後ろから襲った。
この人は御小督前(おごうのまえ)と言い、
大変な美女であったがそれだけではなく、武芸にも優れ、
男にも勝る胆力を持つと、もっぱらの噂であった。
この時も、彼女は少しも騒がず、後ろから抱きついてきた猿の肘を締めると、
その痛さに猿は気を失い、
御小督前はそのままその場を逃れた。
少しして肘を痛め失神した猿が見つかり、その事が秀次に報告された。
大切にしている猿である、
何者の仕業かとすぐに取調べが行われたが、御小督前が「わたくしです」と申し出、
これこれと理由を語った。
それが嘘かまことか、彼女の前に件の猿を連れてくると、
御小督前を見たとたんおびえ恐れた。
これにて偽りなしとわかり、御小督前は許され、
このことは聚楽第での大きな話題となった。
そしてそれは、秀吉の耳にも入った。
「関白は、猿を飼って、女どもに、なぶりものにさせておるのか…。」
もちろんゆがんだ形で。
「これはわしの幼名が猿ゆえ、わしをなぞらえての事であろう…。
わしを女にいたぶらせて喜んでいるとは…おのれ秀次!」
後に秀吉が三条川原で秀次の妻子、子女まで三十余人を斬首したのは、
この一件以降、
秀次のみならす、その女中たちまで、深く憎んだ事によるそうだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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