永井直勝☆ | げむおた街道をゆく

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関ヶ原戦後のこと。
徳川家康より軍功のあった諸将への加増が発表されたが、井伊直政、本多忠勝にも、
加増により所替えを仰せ付けられ、御書付を与えられた。

しかし井伊・本多はその加増の少ないのを不足に思い、

新領地を拝領しない旨を申して、折紙を返上し、そのまま退出してしまった。

そしてその事に不満を言っているのを、
永井右近太夫直勝が聞きかね、直政に直接に異見した。
「貴殿は徳川家の功臣であり、家臣団の中でも1,2に数えられる身であるというのに、
そのように禄を貪られるのは心得かねることである。御加増の折紙を御拝領すべきである。」

直政はこれを聞くやいなや、
「永井! 其の方などが存ずるようなことではない!
さほど功もない、一度与力したにすぎない大名共には、

大国・大領を与えられているのに、
これでは我らが、三河以来粉骨をしてきた甲斐もないではないか!

無念の奉公を、恨まずにいられようか!」
そう、未だ蟠りを持っているように申し立てた。

これに永井直勝重ねて異見する。
「これは直政の言うこととも思えぬ。貴殿や私のような譜代の輩は、

今度の合戦の報奨について、
どのように扱われても、どうして御恨み申し上げることが出来るだろうか?
そもそも今度お味方された諸大名は、徳川家意外の恩録によって一家を立てた人々である。
そんな彼らの加勢がなかったら、

どうしてこの度の一戦、御旗本の人数だけで、例え鬼神の働きをしたとしても、

勝利することが出来ただろうか?

言わば、国々の大名は世間の存在である。

我々は御身内である。

貴殿は特に御人数も多く預かられている。
そうであれば、昔を思い返せば御恩が浅いなどと申すことは出来ない。
貴殿は上様から付けられている御人数がなければ、

例え樊カイを欺くほどの武勇があったとしても、
どれほどの働きが出来ただろうか?」
 

直政は、この言葉に大いに腹を立て、
「右近などと比較されるような、この兵部だと思うのか!」

と言い放った。

 

これを永井はあざ笑う。
「愚かなり直政!

この右近にも、お主ほどの人数を預けさせて頂ければ、どうして貴殿に劣るだろうか!
小身であるから、働きも思ったようには行かないのだ。

貴殿がそれほど道理に暗かったとは知らなかった。
そんな貴殿と年来交友を重ねたことが口惜しい!

今後は絶交いたす!」
そう言い捨て立ち去った。

その後、直政はつくづくと考え、永井の言ったことこそ道理だと思った。
そして自分の非を悔やみ、

「功に誇るのは義士の成すべきことではない。私は愚かにして、
上より下された所領を受けないというのは、畏れ多いことである。」
そう、誤りを正すことに決心し、本多忠勝にもこの道理を言い聞かせ、

 

両人で家康の御前に出て、
「以前、不足を申し上げた所領を、拝領仕るべし!」

と申し上げた。
 

これに家康も、
「尤もなり。良き了見なり。」

と、お咎めもなく折紙を与えた。

ここより直政は直に永井の所に向かい、彼と対面して、
「以前の過言、面目のないことだった。貴殿は真実の友である。

たった今私は、あなたに降参する。
どうか以前と変わらぬ、交友を続けていただきたい。」

そういって文殊の茶入を差し出し、

「この茶入は、あなたもご存知のように我が家第一の秘蔵の品であり、

命にも代えがたいもである。
だが、今度の貴殿の厚情への感謝を、言葉で表すことはできない。

せめて私の心ばせとして、これを。」

これに永井は直政の心の丁重さに感じ入り、
「さてさて、以前に変わらぬ交友は、こちらからもお願いする。
しかしこの文殊は天下の重器ではないか。このようなものを受け取る事は出来ない。」
そう再三辞退したが、直政の、
「この兵部の、拠ん所無い心底を見せる印である!」
との言葉に遂に受け取り、それは今も、永井の家に伝わっているそうである。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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