天正18年(1590)、会津を拝領した蒲生氏郷は、
奥州、葛西大崎一揆への対応を協議するため、
伊達政宗が陣する吉岡に出向いた。
これが氏郷と政宗の初対面であり、
かねてよりその野心を大いに噂される政宗の元に赴くことに、
氏郷に同行した蒲生家中の面々は、あの鴻門の会もかくや、
というほどの強烈な緊張下にあった。
両雄対面し挨拶、そして一揆の状況分析、ならびにその対応策を話し合い、
双方の作戦を決める。
何事もなくすんだ。ここまでは。
会議が終わると政宗より、「少し時間は早いが。」と、饗応が出た。
伊達、蒲生双方の家中、定められた座に座り、そこに膳が並べられた。
さて、この時、蒲生家中の末席に、あの蒲生郷舎もいた。
会食が始まらんとした時、郷舎、突然立ち上がると、
政宗、氏郷の座のほうに、つかつかと歩み寄り、
先ず政宗の前に据えられた膳を取り上げ、さらに氏郷の前に据えられた膳を取り上げると、
それぞれを取替えて再び置きなおした。
そうして政宗に向かって、
「このような軍門における会見では、茶を飲み酒を酌み交わすことすら、
互いに疑い深くなっているものです。
そういった疑いを晴らすためあえて、このような事をいたしました。
どうか私の出すぎた無礼とお考えになりませぬよう、お願いいたします。」
と、あくまで座の興を冷まさぬよう、朗らかに言った。
これに政宗、
「ぬう! 突然持病が! すまぬが、今日はこれで失礼いたす!」
と、その場を立ち去ってしまったと言うことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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