永禄十三年(1570)、武田信玄による、駿河花澤城攻めの折のことである。
城攻めの真っ最中に、寄せ手の武田軍・初鹿野伝右衛門が、
ふと、同僚の名和無理之介に、こんなことを言い出した。
初鹿野「なあ、あそこの城の上げ戸、閉まってるだろ?」
名和「ああ?閉まっているな。」
初鹿野「アレ上げてこいよ。」
名和「俺が!?」
しかしその上げ戸のある場所には、城方より激しく矢弾が降り注いでいた。
名和「…ムリムリ。あんな攻撃の激しいところで戸を上げられるものかよ。」
初鹿野「ほう…、無理…だと!」
とたんに初鹿野立ち上がり、ものすごい勢いで城の縁まで駆け寄ると、
その上げ戸を押し上げた!
さらに諏訪越中も初鹿野の後に続き、手に持つ鎌槍にて、
上げ戸をさらに高く押し上げた!
もちろん矢弾の雨あられの中を、である。
そうして陣に帰って来ると、
「お前無理って言ったのに、俺達上げちゃったよ。」
と、初鹿野と諏訪。
そして、無理之介が具足の上に着ていた、高名な縄の羽織りを無理矢理はぎ取り、
「お主は無理を通すから無理之介と名乗っているはずなのに、
今回”無理”だと言って断ったよな?
よって以後、無理之介と名乗らないように!」
と言って捨てた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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