武田信玄の使い番に初鹿野伝右衛門という勇者がいて、
背に、「香車」と書いた陣羽織で有名であった。
信玄は、
「自ら”香車”と名乗る伝右衛門は、思い上がった男だ。」
と彼を叱ったこともあるが、
猪突猛進する伝右衛門の働きは、正にその異名に恥じないものであった。
しかし信玄は、
「前ばかり行って戻らないのでは真の勇者とは言えまい。
戻ってきてこそ真の勇者であろう。」
と、なお渋いことを言う。
それを聞いた伝右衛門は、さっと陣羽織を裏返してみせ、
「金になって戻って参ります。」
と返答した。
伝衛門の陣羽織の裏には、「金」の文字が書かれていたのだ。
これを見た信玄は満足そうにうなずき、周りの武将もドッと笑いましたとさ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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