徳川家康は、己の命に逆らった安藤直次の罪を不問に付したが、
直次が退出した時、同席していた土井利勝にふと洩らした。
「帯刀め、腹を切るべきところを、二度も許してやったものを・・・。」
「・・・と言っておられたが、貴殿ほどのお人が、
本当にそんなヘマを仕出かした事があるのですか?」
利勝は、直次に直接問い質した。
少し考えて、直次は答えた。
「うむ、ある。
実は、わしは昔、大御所様の寵童だった井伊万千代(直政)と、
人目を忍んでねんごろになった時期があってのう。
その時、二度ほど万千代のもとに来た大御所様と出くわしそうになったが、
一度は衣装行李に隠れてやり過ごした。
二度目は、二人で和やかに語り合っておった時、戸口の向こうで大御所様の声がした。
とっさに万千代が開きかけた戸を押さえ、
『き、今日は事情あってお相手できませぬ!』
と叫んだところ、大御所様は、
『いつにない、険しい顔をするわい・・・。』
などと言いながら帰って行かれたが、
今にして思えば、両方ともバレていたのであろうな。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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