ある時、徳川家康は側近たちに、それぞれ一万石を与えた。
しかし、安藤直次だけ横須賀五千石だった。
じつは家康は横須賀が一万石だと思いこんでいたのだ。
それから十年。
家康とかつて加増された者たちが一同に会したことがあったが、
そこには直次もいた。
「以前お前たちに一万石ずつ与えたが、その後どんな様子だね。」
と家康は家臣たちに尋ねたが、直次だけは五千石しか貰っていない。
そこで家臣たちの一人がそのことに言及したのだった。
「あのー、畏れながら直次だけ五千石なのですが・・・。」
「え? 本当か?」
家康は加増から十年目にしてやっと初めて自分の勘違いに気付いた。
「そうだったのか・・・。
わしは決して直次だけ低い禄高にしようと思ったわけではないのだ。
それにしても、
直次はわしの間違いを顔に出さず、口にせず、怨みも怒りも抱かずに、
今日まで耐えてよく頑張った! 感動した!」
そう言うと家康は、足りない五千石と十年分の差額の五万石を併せて加増した。
これは今まで勘違いしていたことを恥じたことと、
直次が、決して家康の間違いを指摘しなかったことを賞してのことであった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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