ある日、義直公が、お供を連れて狩りの為にと、ある農村を通った。
村人達は平伏して、その通過を見送っていたのだが、
盥(たらい)で水浴びをしていた爺さんが急な殿様の来訪に、
びっくりして腰を抜かしてしまった。
「大変じゃ、着物を着ねば。」
この爺さんは元々体が悪くて、思うように動けなかった。
当時は殿様の前で裸なぞ、
無礼討ちされても文句が言えないから、慌てるのも当然だった。
「おっとう、どうしたあ。」
声にならない悲鳴を聞いた娘が出てきて、飛び上がらんばかりに驚いた。
おっとうの命の危機。
だが、おっとうに服を着せようにも、殿様はどんどん近づいてきた。
困った娘は。
「こなくそおぉぉぉ!」
水を張った盥ごと父を担ぎ上げ、家に運び入れて隠した。
しかし殿様は、これをしっかりと見た。
娘は、殿様の家来に呼び出され、殿様の前に連れてこられた。
お叱りを受けると震えていた。
ところが殿様は、
「なんと身丈夫な娘じゃ。
そなたからなら強き男子が生まれるに違いない。
儂の嫁になれ。」
と言った。
娘は驚いたが、殿様にどうしてもと頼まれて、嫁ぐ事になった。
そして娘は、殿様の期待通り立派な世継ぎを生んだとのこと。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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