紀州頼宣に仕えた儒臣に、奈波(那波)道円という者がいた。
その甥の奈波加慶という針医師が、御供して紀州にいた時に、
和歌山一番の富豪・島孫左衛門という町人が、
長年、病気に悩んでいた。
ある人が、この度、加慶が来たのを幸いとして、島に彼を推挙した。
その人が療治を頼むと、
加慶は、
「心得た。」
と答えた。
「それは良かった。
この孫左衛門という人は和歌山で一番の有得人ですから、
他の病人よりも精を出して治療してくださいね。」
加慶は、つくづくと聞いていたが、その人が座を立とうとした時に…。
「只今御頼みの病家への見廻りは、御断り申す。」
「なんと!?
たった今、治療を承知されたではないですか!
何故、手を返すようなことをなさるのです!」
「始めは病人とばかり承ったので承知いたしましたが、
あなたは富家だから精を入れて治療しろと仰った。
私は今日まで病には針を立ててきましたが、
金銀に針を立てたことはありませんので御断り申す。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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