ある時のこと、南龍公・徳川頼宣が、岩手川にて川狩りを行い、
鮎を炙らせ酒樽を開くなど大いに興じていたが、
若者たちに泳がせれば一段の興があると、
「水泳せよ。」
と命じた。
そうでなくても泳ぎたいと思っていた若侍達は一斉に川に入り、
様々に手練を尽くして泳いでいた中に、佐渡与助というものがあった。
しかしこの佐渡与助、水泳不調法にて沈むこと度々であった。
ちょうど水野十兵衛という侍が、小舟に乗って近くに在ったが、
これを見て声をかけた。
「与助よ! 叶わずば船に取り付け!」
この時、頼宣は河原に床机を立てていたのであるが、
この十兵衛の言葉を聞いて、
大音声で怒鳴った!
「やあ、十兵衛のタワケが!
士(サムライ)に対して、
『叶わずば船に取り付け。』
などと言う者があるか!
そんな言われ方をすれば、士たる者、死んでも船に取り付くものか!
たわけた事を言って、惜しき侍一人を殺すな!
同じ意味であってもそう言う時には、
『与助、船に取り付いて休め。』
と言えば、
与助も船に取り付くことが出来るものだ。
この十兵衛の大たわけめ!」
そう、叱りつけたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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→ 南龍公、徳川頼宣
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