紀州南龍院・徳川頼宣様は、
ある日、和歌山で御物見に出られ、往来をご覧されたことがあった。
御出になられたとも知らずに御家中の者は大勢往来していた中で、
ある御家来が、供侍、草履取り、挟み箱持ち、槍持ちを従えて通りかかった。
御側に居た者が、
「あれが、かの噂となっている男か。」
と笑ったのをお聴きになられた。
「どのような噂があるのか?」
と言われたので、御側の者共は、やむを得ず話した。
「かの者は、身の上が苦しいとのことです。
そうなのですが他に取り計らい方もあるでしょうに、
甚だ不束なことをしているのでございます。」
「どのようなことをしているのか?」
「かの者が召し連れています侍は、かの者の次男でございます。
草履取り、挟み箱持ち、槍持ちは、いずれも三男四男、
あるいは世話をしています甥などです。」
「それは頼もしい家来である。
予は大勢召し連れているが、
かの家来に劣らぬ草履取り、槍持ちがいるかというと心もとない。
家計の苦しさは関係のない事だ。」
程なくして、かの者は御取り立てられて、子供も相応の役に付けられたそうだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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